D・W・グリフィスの作品 1913年(4)

「THE MOTHERING HEART」

 D・W・グリフィス監督作品。バイオグラフ社製作。ジェネラル・フィルム社配給。リリアン・ギッシュ主演。

 リリアン・ギッシュが初めて単独主演した作品とも言われ、「母親を演じるには若すぎる」としたグリフィスに対して、オーディションを受け直してまでギッシュが役を手に入れた作品ともいわれている。

 ある夫婦。妻は妊娠するが、夫はそのことを知らずナイトクラブで浮気相手といちゃついている。夫の浮気を知った妻は、家を出て実家で子供を出産。しかし、子供は生まれて間もなく死んでしまう。

 後にギッシュがグリフィス作品で演じていく、不幸な若い女性像がこの作品には表れている。特に展開が、「東への道」(1920)に似ている。そして、そのギッシュが素晴らしい。

 まずはその表情。夫が浮気しているのではないかという疑念の表情、夫との離婚を決意したときの決然とした表情、生まれたばかりの子供を失ったときの呆然とした表情・・・といった表情が一言では言い表せない多様な感情をたたえてギッシュの顔に浮かぶ。

 ギッシュの演技の素晴らしさはグリフィスの演出の素晴らしさによっても引き立てられている。夫が浮気相手と密会するのを見つけた後のギッシュの表情は、木に隠れてよく見えない。だが、木に突き立てられた爪が雄弁に物語っている。また、子供を失った後、ギッシュが庭に伸びるバラの茂みをスティックで闇雲に叩きまわすシーンでは、マスクをかけて画面が丸くなるように処理されている。それは、まるで映画の受け手が見てはいけないものこっそり見ているかのような感覚だ。

 グリフィスの演出とギッシュの演技の融合はほかにもある。ギッシュが妊娠していることは、ギッシュがちょうど赤ん坊の大きさに畳んだ服を、腕の中であやすような仕草を見せることで私たちに知らされる。また、ギッシュが夫とナイトクラブへ行ったとき、ギッシュがナイトクラブのような場所にウブであることを、ステージ上のショー(原始人の格好をした男女が踊るショー)に見とれて他の人のテーブルにぶつかってしまうことで示される。このとき、ギッシュの妊娠をすでに知っている観客が、ギッシュのお腹がテーブルにぶつかることで、ヒヤっとすることまで計算していたとしたら、グリフィスはすごすぎる。

 D・W・グリフィスがバイオグラフ社で短編を撮っていた時代の末期にあたるこの作品は、グリフィスのメロドラマの集大成を示しているとともに、この後のグリフィス映画を予見しているようにも思える。そして、何よりもグリフィスの演出、リリアン・ギッシュの演技、わかりやすいが胸を打つストーリー(ラストシーンはグッとくるものがある)、素晴らしいセット(特にナイトクラブのセット。当時の金額で1,800ドルかかったという)と、見事な出来栄えの作品である。



(DVD紹介)

Dw Griffith: Years of Discovery 1909-1913 [DVD] [Import]

Dw Griffith: Years of Discovery 1909-1913 [DVD] [Import]

 バイオグラフ社所属時代のD・W・グリフィスの作品を集めた2枚組DVD。多くが1巻物(約15分)の作品が、全部で22本見ることができる。



「THE REFORMERS」(1913)

 製作国アメリカ バイオグラフ・カンパニー製作 ジェネラル・フィルム配給
 監督D・W・グリフィス 脚本フランク・E・ウッズ 出演チャールズ・ヒル・メイルズ、ジェニー・リー

 社会改革家に推されて市長になった男だが、街を浄化している間に、息子と娘は年上の男から悪い影響を受けていた。

 グリフィスはアルコールや薬物への警告を促す作品を多く作っていたが、その一方で社会改革家の人々の行きすぎた行動への批判を込めた作品も作っていた。「イントレランス」(1916)のエピソードにもそれは現れている。

 この作品は、そんなグリフィスの考えが強く現れている作品である。街を歩いて酒やタバコ、舞台などを禁止していく市長の姿と、酒の味を覚える息子や年上の男に惹かれていく娘の姿が、カット・バックで描かれる。技術的にも、さりげなくグリフィスの考えの映像化のために駆使されている。