映画評「大疑問」

 原題「THE GREATEST QUESTION」 製作国アメリ
 ファースト・ナショナル・ピクチャーズ製作・配給
 監督・製作D・W・グリフィス 撮影ビリー・ビッツァー 出演リリアン・ギッシュ ロバート・ハロン

 幼い頃に殺人を目撃した記憶を持つネリーは、両親を失った後、親切なヒルトン家に置いてもらうことになる。だが、長男ジョンの第一次大戦の戦死などで、ヒルトン家は困窮。ネリーは、近くに住むケイン夫妻のところに女中として住み込みで働きに出る。

 この頃のD・W・グリフィスの映画は、「ギッシュ時代」とも言われるように、リリアン・ギッシュが光っている。「大疑問」でも、少女の役をギッシュは見事に演じている。素直で純朴なキャラクターといい、虐待されるシーンといい、「散り行く花」(1919)に通じる役柄は、ギッシュにとってはまり役といってもいいだろう。

 脇に回っているロバート・ハロンのことも忘れてはならない。見せ場はそれほどないものの、常にネリーを見守り、安心感を与えてくれるジミーを、ハロンは自然に演じてみせる。

 「大疑問」は、グリフィスの作品の中では、知名度の低い作品だ。それは、脚本によるのかもしれない。聖書を引用して、時にストーリーとは無関係な象徴的なショットを挟み込み、非現実的なシーンで人間の愛を謳い上げる脚本のクレジットにグリフィスの名前はない。しかし、昔から大げさな引用が好きなグリフィスの意向が感じられる。

 「散り行く花」が小さな小さな物語で成功しているのに対し、「大疑問」は本来ならば小さな物語を大きく謳い上げている。それは、グリフィスの個性として愛すべきものである。だが、単体の作品としてみると、時にうるさく感じられてしまう。

 グリフィスの演出も地味だ。「散り行く花」のような目を覆いたくなるような残虐さは、「大疑問」にはない。だが、住み込みで働きに出た先で、一家の主人のマーティンがネリーに性的欲望を感じる表現のいやらしさは見事だ。柵に置かれたネリーの手にさりげなく触ったりといったさりげない動作は、いやらしさに満ちている。「散り行く花」で、家庭内暴力という題材で画期性を発揮したグリフィスは、ここではロリコンという題材で画期性を発揮している。

 「大疑問」には、グリフィスの刻印と、リリアン・ギッシュやロバート・ハロンの見事な演技がある。グリフィスの刻印が邪魔に感じたりもするものの、それでもこの頃のグリフィスの知名度の低い作品の中にも見るべき作品が多くあることを教えてくれる。


D・W・グリフィスの大疑問【全長版】 [DVD]

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