映画評「人間タンク」

 原題「THE MASTER MYSTERY」 製作国アメリ
 ロルフ・フォトプレイズ製作 オクタゴン・フィルム・インク配給
 監督ハリー・グロスマン、バートン・L・キング 出演ハリー・フーディーニ

 ハリー・フーディーニは、20世紀最高の奇術師と言われる人物である。フーディーニが得意としたのは脱出であり、手錠をかけられたり、拘束着を着せられたりした状態から脱出するのを得意としていた。

 そのフーディーニが映画に乗り出したのが、この作品である。それまでにもフーディーニは、自身の技を撮影したフィルムを残していたが、劇映画として作られたのはこれが初めてである。当時、40歳を超えていたフーディーニは、舞台ではやるべきことをやりつくしており、映画の世界に向かったとも言われている。

 この作品は、連続映画として作られている。各エピソードの終わりでは、フーディーニは危機に陥り、次回の最初で脱出するというパターンとなっている。

 すでに奇術師として名声を得ていたフーディーニが劇映画に出演する。ただそれだけで、興行的な価値は十分だったであろう。そして、フーディーニの妙技を映画で見られることは、当時の観客を楽しませたことだろう。しかし、正直言って、私はあまり楽しめなかった。フーディーニが迎える危機や脱出は、ある程度バリエーションがある。問題は、そこ以外の部分がお粗末なのだ。

 例えば「ファントマ」には全編に残虐性が漂い、「Le Vampires」には荒唐無稽さがあった。一方でこの作品は、フーディーニの脱出芸以外の部分に面白さを感じることが出来なかった。映画に初めて登場したと言われるロボットのキッチュな魅力はある。だが、造形や動きのキッチュさにとどまり、2話目以降の登場では新たな面白さはない。ストーリー展開を字幕に頼っているという点も、映画全体としての面白さを損なっているように感じられた。

 こんなことをいうのは野暮というものだろう。この映画は、フーディーニが映画に出演したことや、フーディーニの芸を見ることができるという点が見所の作品なのだから。