映画評「カトリーヌ」

※ネタバレが含まれている場合があります

カトリーヌ [DVD]

[製作国]フランス [原題]UNE VIE SANS JOIE [英語題]BACKBITERS

[監督・製作・脚本]ジャン・ルノワール [監督]アルベール・デュードネ 
[撮影]ジャン・バシェーレ、アルフォンス・ジボリ

[出演]カトリーヌ・エスラン、アルベール・デュードネ、ウージェニー・ノー、ピエール・レトランゲェ、ピエール・シャンパーニュ、ルイ・ゴーシェ

 小間使いのカトリーヌは、主人である市長マレの妻から嫌がらせを受け、家を出る。その後も、街の人々の嫉みや不寛容から爪弾きにされるカトリーヌ。かつての主人だったマレだけが、カトリーヌの味方だ。だが、そんなマレは、カトリーヌのことが原因で選挙戦で苦戦を強いられ、そのことを知ったカトリーヌはマレの元から去ろうとする。

 ジャン・ルノワールの監督デビュー作と言われるこの作品は、ルノワール自身が作品について多くを語らなかったこともあり、実際にルノワールがどの程度監督を行ったのかはよく分からない作品となっている。ルノワール自身がほとんどの部分を演出したとも言われるし、そうではないとも言われている。確かなのは、主演のカトリーヌ・ヘスリングがルノワールの妻であり、ルノワールはカトリーヌをスターにしようとして映画を製作したということだ。

 当時のルノワールは、自国のフランス映画ではなく、アメリカ映画の熱狂的なファンだったという。もちろんアメリカ映画の女優のファンだった。リリアン・ギッシュや、メアリー・ピックフォードといった女優たちが演じたキャラクターを、カトリーヌを見ていると思い起こさせる。リリアン・ギッシュで言えば「東への道」(1920)が最も思い出される。カトリーヌの不幸な境遇は、多くのピックフォード作品に共通するものだ。

 ではそのカトリーヌが、ギッシュやピックフォードと同じくらいの魅力を放っているかというと、個人的にはあまり感じられなかった。いつも困ったような表情のカトリーヌには、ギッシュのような毅然さも、ピックフォードのような明るさもない。それでも、美人とはいえないカトリーヌのクロース・アップを、これでもかというほど見せつける。しかも、クロース・アップのショットは、それまでのシーンとの調和が取れていないことも多く、シュールな雰囲気さえ漂わせる。

 基本的には、かなりシンプルなメロドラマであるこの作品は、演出が冴えている点が特徴といえるだろう。短いショットを積み重ねた演出は、カトリーヌと心臓に病気を持つ男性モーリスとのダンスのシーンなどで効果を上げている。最も効果を上げているのは、終わり近くで繰り広げられる、カトリーヌが乗った暴走する電車と、それを止めよう車で追いかけるマレのカット・バックのシーンだろう。D・W・グリフィスの「ラスト・ミニッツ・レスキュー」をより深めたシーンと言えるこのカット・バックは、迫力に溢れたものとなっている。同時期に作られた様々な映画と比較しても、優れたカット・バックの使い方ということができるのではないだろうか。

 「カトリーヌ」は、ジャン・ルノワールのデビュー作であるとともに、優れた演出によるシンプルなメロドラマである。その演出の、どの程度の部分をルノワールが担当したのかは、謎であるが。

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