映画評「キートンのラスト・ラウンド」

※ネタバレが含まれている場合があります

拳闘屋キートン(Battling Butler) [DVD]劇場版(4:3)【超高画質名作映画シリーズ35】 デジタルリマスター版

[製作国]アメリカ  [別題]拳闘屋キートン  [原題]BATTLING BUTLER  [製作] バスター・キートン・プロダクションズ  [配給]メトロ=ゴールドウィン=メイヤー(MGM)

[監督・製作]バスター・キートン  [製作総指揮]ジョセフ・M・シェンク  [脚本]アル・ボースバーグ、レックス・ニール、チャールズ・ヘンリー・スミス、ポール・ジラード・スミス  [撮影]デヴェロー・ジェニングス、バート・ヘインズ

[出演]バスター・キートン、スニッツ・エドワーズ、サリー・オニール、ウォルター・ジェームズ、バッド・ファイン、フランシス・マクドナルド、メアリー・オブライエン、トム・ウィルソン

 バトラーは有閑階級の青年。軟弱なバトラーを鍛えようとした父は、山でのキャンプ生活を命じるが、執事がすべてをまかなってくれる始末。山に住む娘に恋したバトラーは、強い男を好む娘の家族に結婚を認めさせるために、同姓同名のボクサーであるバトリング・バトラーであると名乗る。

 バスター・キートンといえば、アクロバティックな動きで知られているコメディアンである。だが、細かいギャグにも工夫を凝らしていたことを忘れてはならない。「拳闘屋キートン」は、キートンの長編作品の中では比較的知名度の低い作品だ。その理由は、「西部成金」(1925)と同じく、細かいギャグとストーリー・ラインの面白さがが中心の作品のためであると思う。

 細かいギャグはおもしろい。特に恋する女性と結婚するまでがおもしろい。狩りをしているバトラーは、慌てて前後逆に銃を構えて発砲してしまう。新聞に載っていた恋愛指南のコラムに書かれていた問答集を破って持っていくも、最初の質問で愛を勝ち取ってしまう。ボクサーを騙ったバトラーは、本物のバトラーの試合で相手を応援するがバトラーが勝ってしまい、全員が帰った客席に執事と共にポツンと座って途方にくれてしまう。ボクシングのトレーニングをすることになってからも、ロープに体を絡ませてしまったり、ロープに首を絞められてしまったりとリングに入るだけでもままならない。

 細かいギャグが面白いにも関わらず、正直言って多少の消化不良を残した作品でもある。それは、キートンとボクシングという組み合わせから、アクロバティックな動きの魅力を期待しすぎたからかもしれない。それはあるだろう。だが、ストーリーに頼りすぎている面もあるように感じられるのだ。

 他人のフリをして窮地に追い込まれるという設定は、「街の灯」(1931)を代表とするチャールズ・チャップリンが好んだものである。成りすました人物の役割をこなさなければならないことから生まれるおかしさや哀しさがチャップリン映画の特色の1つとも言える。「拳闘屋キートン」にも、同じようなおかしさや哀しさが多く見られる。だが、キートンの最大の魅力が非人間的な部分にあるため、チャップリンなら見事に表現してみせる人間的な魅力がキートンには欠けてしまっているように感じられる。細かいギャグやアクロバティックな動きという、キートンの魅力もまた、ストーリーに割かれたエネルギーと時間のために不十分に感じてしまったのだ。

 バトラーは愛する妻に見つめられることで、これまでのダメな男から脱皮して、ついにチャンピオンのバトリング・バトラーと殴り合い、そして勝つ。これは文字で書くと感動的だ。だが、キートンには似合わないように思えてしまう。それが、こちらのわがままだと分かっていても。

 「拳闘屋キートン」は、それでも面白い作品である。見て損はない。だが何よりの収穫は、キートンの魅力が何であるかということを再確認できたことだ。

キートン「拳闘屋キートン」/「キートンの大学生」 [DVD]

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