映画評「ダウンヒル」

※ネタバレが含まれている場合があります

[製作国]イギリス  [原題]DOWNHILL  [製作]ゲインズボロー・ピクチャーズ

[監督]アルフレッド・ヒッチコック  [脚本]エリオット・スタナード  [撮影]クロード・L・マクドネル  [美術]バートラム・エヴァンス

[出演]アイヴァー・ノヴェロ、ベン・ウェブスター、ノーマン・マッキンネル、ロビン・アーヴィン、ジェロルド・ロバートショー、シビル・ローダ、アネット・ベンソン、リリアン・ブレイスウェイト、イザベル・ジーンズ

 裕福な家の大学生ロディーは、女性を妊娠させた濡れ衣を着せられて、大学を退学させられる。父親から勘当されたロディーは、舞台役者やジゴロと転落の道をたどっていく。

 ストーリーは非常にメロドラマティックで、捻りに欠ける。だが、それを補って余りあるヒッチコックの演出が、「ダウンヒル」にはある。といっても、目を見張るようなカメラワークや、編集があるわけではない。堅実だが効果的な演出を見ることができる。

 ロディーが転落していく象徴として、エスカレーターやエレベーターで下に降りていくショットがある。この分かりやすい、ヒッチコック自身は「ナイーヴな」と表現している演出が見事だ。象徴の選び方としては安易なのだが、エスカレーターを降りていくロディーの後姿が小さくなっていく構図や、エレベーターに立っているロディーの無表情を真横に捉えた構図は、象徴の安易さを超えた堅実な演出を感じさせる。また、それぞれのショットが、比較的長めに時間を取っている点も見事だ。何とも言えない物悲しさが漂う。

 もう1つ、見事な演出を見てみよう。ジゴロとなったロディーは、金持ちが集まる夜のパーティに出席し、女性たちとダンスをすることで金を取っている。その中の1人が、ロディーに憐れみの気持ちを抱き、ロディーは心を許して過去を話す。朝が来る。カーテンが開き、太陽の光が射し込む。そこでロディーは、その女性がかなりの年の、決して美しいとは言えない男性的な顔立ちであることに気づく。少し過剰にメイク・アップされているとは思うが、女性を捉えたクロース・アップは非常に残酷で、かつ効果的だ。

 「ダウンヒル」に、ヒッチコックの名前からイメージされる、サスペンスに溢れた、演出の凝った作品を期待してはいけない。ありきたりな内容を、優れた監督が堅実に撮った作品である。


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