ミューチュアル時代のチャップリンの作品「チャップリンの消防夫」

 チャーリーはドジな消防夫。朝は寝坊するし、ベルの音を聞くとすべて火事だと勘違いしてしまう。そんな中、愛する女性の家が火事になり、チャーリーは救出のために奮闘する。

 他でも触れられているように、この作品はキーストン社の「キーストン・コップ」を思わせるドタバタ消防夫たちが登場する。しかし、それはこの作品の一部であって、この作品の最大の見所は、チャップリンがビルをよじ登るシーンだ。

 チャップリンの身体能力の高さが、いかんなく発揮されているこのシーンは、バスター・キートンの作品を思わせる。だが、そのアクション自体の素晴らしさでいえば、正直キートンの方が見ていてすごいと思う(それは、ジャッキー・チェンへと受け継がれていく)。それでも、この作品のチャップリンの身体能力の高さが、キートンに負けず劣らず素晴らしいものに見えるのは、ストーリーのためだろう。

 チャップリンは、愛する女性を救出に向かうためにビルをよじ登る。しかも、一目散に登る。そして、救出した後は女性を背におぶって一目散に降りる。その一点において、この作品のチャップリンのアクションにはドラマが生まれている(降りるときに背負った女性が明らかに人形だったとしても)。その前に、ものすごい形相で馬車を疾走させるチャーリーを正面から捉えたショットがあることも、ドラマを生み出す一助となっている。

 ドラマを生み出すテクニックにおいて、チャップリンは同じ年に「イントレランス」(1916)を製作したグリフィスと比較すると、まだまだうまくいっているとは思えないのだが、それでもドラマを生み出す努力はされているし、それは決して失敗には終わっていない。


チャップリン・ザ・ルーツ 傑作短編集・完全デジタルリマスター DVD-BOX

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