映画評「みかん船」

※ネタバレが含まれている場合があります

[製作国]日本  [製作]大藤信郎プロダクション  [配給]中央映画社

[演出・作画]大藤信郎

 江戸時代に、紀州から江戸に嵐の中みかんを運んで財を成した紀伊国屋文左衛門の物語を切り絵アニメ化した作品。切り絵や影絵を使ったアニメーションの日本における先駆者である大藤信郎の作品である。当時のセルアニメでは出せなかった細かい模様に特徴がある。

 私が一番興味を引いたのは、嵐を起こす雷様と、水門を開ける雷様の子分と、嵐に必死で耐える紀伊国屋三者の様子がカット・バックで描かれている点だ。徐々にカットを短くしていき緊迫感を増すという手法が取られており、大藤信郎の映画的なセンスが感じられる。手法自体は1910年代の始めにD・W・グリフィスが磨いたものであり、新しいものではない。だが、大藤の「西遊記孫悟空物語」(1926)が、全体の演出としてのっぺりと平板だったのを考えると、雲泥の差だ。


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