映画評「命には命を」

製作国ロシア 原題「ZHIZN ZA ZHIZN」 英語題「A LIFE FOR A LIFE」
監督・脚本エフゲーニ・バウエル 原作ジョルジュ・オーネ
出演ヴェラ・ホロードナヤ、リディア・コレノワ、イワン・ペレスティアニ、ヴィトオルド・ポロンスキー

 革命前のロシアを代表する監督であるエフゲーニ・バウエル監督作。この作品の前に、3本のバウエル作品を見たが、いずれも暗さが特徴の印象深い作品だった。「命には命を」は非常も暗い作品である。金持ちの娘ムーシャと、彼女とともに育てられた養女のナータ。ナータとバルチンスキー公爵と愛し合うようになるが、金を目当てに公爵はムーシャと結婚してしまい、最後には悲劇につながっていく。よくあるメロドラマとも言えるが、ラストの悲劇は暗い。

 暗さはあるものの、「命には命を」はあまり強い印象を残さなかった。1916に公開された作品として、バウエルの演出は適切だ。素晴らしいセット、考えられた画面の構図、ムーシャとナータの様子を交互に移すカット・バック、ゆるやかに後ろに移動するカメラなど、バウエルの腕前は遺憾なく発揮されている。だが、他の作品で果敢に使用されていた、ストップモーションのような映像トリックは使われていない。

 暗いもののよくあるメロドラマの域を超えていない内容と、優れているものの特徴に欠ける演出は、バウエルを傷つけるものではもちろんない。当時としては、バウエルの手腕は素晴らしい。だが、楽しんで見れるかというと、なかなか難しいのではないだろうか。成熟度を増して、優れた演出を見せるがゆえに特徴が消えてしまっているのだ。