映画評「雑貨屋」

 原題「THE GROCERY CLERK」 製作国アメリ
 製作・配給ヴァイタグラフ・カンパニー・オブ・アメリ
 監督・脚本・主演ラリー・シーモン

 食料品店の店員のラリーは、客や上司らとドタバタを繰り広げる。そこに強盗が入り、ラリーはバイクで強盗を追いかけていく。

 ラリー・シーモンは今では忘れられた存在だが、サイレント時代は人気があったコメディアンである。

 この映画は面白い。食料品店のセットはロスコー・アーバックル主演作で、バスター・キートンのデビュー作でもある「肉屋」(1917)に似ている。小麦粉まみれになったり、物を投げあったりというギャグも似ている。だが、筒の中に入った小麦粉が扇風機の風に吹かれてすごい勢いで飛んでいくといったオリジナリティのあるギャグも見せてくれる。

 細かいギャグも面白いが、この作品の最もおもしろいところは、大げささにある。例えば、車が爆発するというギャグ1つ取っても、文字通りの大爆発でその大げささで圧倒される。強盗との追いかけっこでは、何のためにあるのかよく分からない巨大な見張り台のような建物とロープを使って、サーカスのようなスペクタクルを見せてくれる。

 スタントの大きさはバスター・キートンの後の映画を凌駕しているともいえるが、キートンの映画がキートン自身によってスタントが行われていることが画面からも分かるのに対して、シーモンはカットを割っており、おそらくスタントマンが演じたのではないかと思われる。だが、そのことによってこの映画の面白さが減じるわけではない。後のアクション映画の編集にも似た方法で、この映画は独自の面白さを保持していると言える。

 この映画を見ると、シーモンの名前が今では忘れられているのが、非常に残念に思えてくる。そして、シーモンの映画をもっと見たくなってくる。