映画評「雪山氷河の血煙」

※ネタバレが含まれている場合があります

[製作国]アメリカ [原題]THE CHECHAHCOS [製作]アラスカ・ムーヴィング・ピクチャーズ・コープ [配給]アソシエイテッド・エキジビターズ

[監督・脚本]ルイス・H・ムーモウ [撮影]ハーバート・H・ブロウネル、レイモンド・ジョンソン

[出演]ウィリアム・ディルス、アルバート・ヴァン・アントワープエヴァ・ゴードン、ベビー・マージー

[賞]2003年度アメリカ国立フィルム登録簿登録

 ゴールド・ラッシュに沸くアラスカ。一攫千金を狙って船でアラスカに向かうスタンロウ夫婦と娘のルース。船が事故で沈没し、スタンロウ氏は亡くなる。残されたルースと妻のマーガレットは、別々の人物に助けられ、互いに死んだと思い込む。

 アラスカの山を登る人々が鎖のように連なっているのを、麓から撮影したショット。チャールズ・チャップリンの「黄金狂時代」(1925)の冒頭のシーンにそっくりだ。チャップリンは、ダグラス・フェアバンクスから見せられたアラスカを描いたフィルムをみて興味を持ち、「黄金狂時代」の製作に向かったと言われている。もしかしたら、この作品がそうなのではないだろうか。途中に登場する小さな街の作りも良く似ている。

 この作品は、全てのシーンをアラスカで撮影した初めての作品だという。制作会社の名前にも、その意気込みが込められている(残念ながら今作のみで消滅してしまったらしい)。おそらく、当時においても多少は話題になっただろう。そのことからもフェアバンクスがチャップリンに見せた作品がこの作品である確率は結構あるのではないだろうか。

 といった部分は余談になる。「雪山氷河の血煙」は、アラスカを舞台にした大いなるメロドラマである。生き別れの母子が再会するまでのメロドラマである。そこに、大いなるアラスカの自然、砂漠のような清潔感ただよう雪原、初めて撮影されたというマッキンリーからの眺望、崩れゆく氷河といった要素が加わっている。

 アメリカ国立フィルム登録簿に登録された最大の理由は、初めてアラスカで全てのシーンが撮影されたという歴史的な意義からだろう。今の私たちにとってカラーで何度も見たことがある風景かもしれないし、面白いかどうかと聞かれると平板なメロドラマ以上でも以下でもない。だが、歴史的な価値を称えるのは別の問題だ。称えるべきはきちんと称えよう。