D・W・グリフィスの作品 1911年(1)

「HIS TRUST(彼の信頼)(彼の責務)」

 D・W・グリフィス監督作品。バイオグラフ社製作。

 南北戦争を背景に、一家の大黒柱を失った南部の母娘と一家に仕える黒人の召使いを描く。

 南北戦争と黒人とくると、後の「国民の創生」(1915)を思い出させる。この作品に登場する黒人はよく描かれている。しかし、それはあくまでも白人に仕える存在としてよく描かれている。南部に育ったグリフィスにとっての黒人に対する考え方が表れているといえるだろう。この考え方は「国民の創生」でも描かれている。

 黒人を演じているのは白人の俳優である。このことを理由に「国民の創生」も非難を受けたが、この当時のハリウッドには黒人の俳優がほとんどいなかったという事情もあったという点は考慮に入れなければならないだろう。

 グリフィスの黒人に対する考え方は別として、この映画を考えてみると、この作品を特徴づけている点として、戦闘シーンの描き方がある。壮大さを感じさせるまではいかなくとも、ロケ撮影できちんと戦場を感じさせるシーンをグリフィスは構築している。こういった経験が、後の「国民の創生」や「イントレランス」(1916)での、大規模な撮影の練習となっていたことだろう。

 印象に残ったシーンがある。北軍の兵士によって焼き討ちにあった家を前に、白人の母親は娘と共に呆然と立っている。燃える家がゆっくりと崩れ落ちるとき、後姿でカメラに捉えられた母親は思わず片手を上に上げる。このシーンは静かな悲しみに満ちている。ゆっくりと崩れ落ちる燃える家、じっと立つがゆえに悲しみを感じさせる母親の後姿。グリフィスは燃える家が崩れ落ちるところを狙って撮影を行っていたであろう。それだけの価値は十分に感じられるシーンとなっている。

 グリフィスの作品の素晴らしさは、こういった見るものの感情を高めるシーンを捉える感覚にもある。それゆえにグリフィスの作品には叙情性が満ちている。

 ちなみにこの作品は、二部構成になっているという。この物語の続きとして、「HIS TRUST FULLFILLED」(1911)も製作されている。当時グリフィスは、二巻もの以上の作品を作りたかったが、バイオグラフ社はそれを認めなかったという。それゆえに苦肉の策が取られた作品でもある。



(DVD紹介)

Dw Griffith: Years of Discovery 1909-1913 [DVD] [Import]

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 バイオグラフ社所属時代のD・W・グリフィスの作品を集めた2枚組DVD。多くが1巻物(約15分)の作品が、全部で22本見ることができる。

注意!・・・「リージョン1」のDVDです。「リージョン1」対応のプレイヤーが必要です。