D・W・グリフィスの作品 1911年(3)

「WHAT SHALL WE DO WITH OUR OLD?(老人たちをどうすべきか )」

 D・W・グリフィス監督作品。バイオグラフ社製作。

 ニューヨークで起こったという実話を元にしたという字幕が最初に出る。昔も今と同じように、「実話を元にした」ということは、映画に何らかのプラスの作用を与えると映画の作り手が考えていたことがわかる。

 病気の妻を持つ老大工。新しいボスにより仕事をクビになり、困った老大工は食料を盗もうとして捕まってしまう。老大工の妻が死に掛けていることを知った判事は、老大工を釈放するも、家に戻ったときには妻は息を引き取っていた。

 ちなみに、現在では老大工が食料を盗みに入る部分が消失している。

 グリフィスは、「CORNER IN WHEAT(小麦の買占め)」(1909)や「THE USURER(高利貸し)」(1910)といった作品で、貧しい人々の側によった社会派的な作品を多く監督している。この作品も、その系列の作品の1つ。グリフィスは過剰に盛り上げることなく、平易に物語を語っている。この平易な語り口が逆に物語自体が持つ力強さを引き出しているように思える。

 私たちが見るのは、テクニックの代わりにある老大工の窮状である。たとえば、老大工がクビを言い渡されるシーンでは、新しいボスが1人また1人と他の高齢の大工にクビを言い渡していく。物語的には、主人公の老大工がクビになる部分だけが撮影されていれば理解できる。グリフィスは新しいボスが高齢の大工たちにクビを言い渡していくシーンをじっくりと描くことで、老人たちの苦境をきっちりと描き出すことに成功し、さらには老大工がクビになるシーン(そうなることはわかっていても、できればそうならないで欲しいと願わずにはいられないシーン)が近づいていく緊張感で見るものの胸を締め付ける。

 ラストはさらに痛切だ。妻の亡骸を前に呆然と立ち尽くす老大工。医者が老大工に手を差し伸べようとするが、老大工はその手を払いのけて泣き崩れる。老大工が医者の手を払いのけるとき、陥った苦境に対する老大工の抗議を(あまりも遅すぎ、あまりにも小さすぎる抗議を)グリフィスは込めているようだ。

 このラストの泣き崩れる老大工のシーンに、「Nothing for the Useful Citizen Wounded in the Battle of Life」という字幕が挿入される。この字幕は締めの言葉として適切であるように思える一方で、泣き崩れる老大工のシーンだけで十分なように思える。グリフィスはラストで教訓的な字幕(や教訓的なシーン)を挿入する作品をこの後作っていく(すべてではない)。これまでのグリフィスの作品には、教訓はなかった。その代わりにあったのは叙情性だった。もちろん、教訓が挿入されることで叙情性が失われてしまうわけではない。しかし、薄められることは確かだ。この作品のラストが持つ圧倒的な叙情性も、字幕によって薄まっているように感じられる。

 後年の説教師的な側面も持つグリフィス作品の萌芽を感じさせる作品でもある。



(DVD紹介)

Dw Griffith: Years of Discovery 1909-1913 [DVD] [Import]

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 バイオグラフ社所属時代のD・W・グリフィスの作品を集めた2枚組DVD。多くが1巻物(約15分)の作品が、全部で22本見ることができる。

注意!・・・「リージョン1」のDVDです。「リージョン1」対応のプレイヤーが必要です。