フランス・ゴーモン社の作品

「ONESIME, CLOCKMAKER」

 フランスのゴーモン社、ジャン・デュラン監督作。

 ジャン・デュランによる、Onesimeという名前の人物を主人公としたコメディシリーズの1編。だが、他のOnesimeシリーズについての知識がまったくなくても楽しめる。

 なぜ楽しめるかというと、この作品は主人公のキャラクターで楽しむタイプの作品ではなく、Onesimeによって時間の進む具合が早くなったパリの様子を見て楽しむ作品だからだ。

 時間の進み具合が早くなったパリでは、あらゆるものが早く動く。その様子は早回しで撮影されることによって表現される一方で、生まれたばかりの赤ん坊を「高い、高い」していると、いつも間にか大人に成長しているという方法でも表現される(大人は年を重ねていないので、シュールなギャグとなっている)。

 また、レンガで壁を作るシーンでは逆回しを使って、後のチャールズ・チャップリンの「給料日」(1922)のような効果を上げている「給料日」の方がより高い効果をあげているが。

 時間が早く進むというワンアイデアに頼っている作品だが、10分弱の短い時間を楽しませてくれるのには十分だ。


「LE COEUR ET L’ARGENT」(1912)

 英語題「THE HEART AND THE MONEY」 製作国フランス
 Société des Etablissements L. Gaumont製作 監督・脚本ルイ・フイヤード 監督レオンス・ペレ

 農村にすむ美しいスザンヌはレイモンドと恋仲だ。だが、スザンヌに目を付けた金持ちの地主が、スザンヌに求婚してくる。

 地味な演技で展開される静かなドラマである。舞台的な大げさな演技は排されており、2か所で挿入される左右の画面分割されるシーンなどと共に、フイヤードとペレが映画的な作品を追求していることが感じ取れる。

 私が心を引かれたのは、クロース・アップの使い方だ。とはいっても、ミドル・ショットに近いくらいの距離なのだが、地主と結婚したスザンヌがレイモンドを思い出すシーンで使われたショットと、ラストの川を流れるスザンヌのショットの2つである。2つともスザンヌの演技と美しさを良く捉えているように私には感じられた。


「LA HANTISE」(1912)

 英語題「THE OBSESSION」 製作国フランス
 Société des Etablissements L. Gaumont製作 監督ルイ・フイヤード

 愛する人を失うと予言された女性。彼女の夫は、アメリカへ向かうためにタイタニック号に乗り込む。

 タイタニック号が沈没したのが、1912年4月14日。この作品が公開されたのが、1912年の10月。史上最大の海難事故は、すさまじい速さでドラマの題材に使われている。リアルタイムなニュースを撮影する技術がまだなかった当時のおいては、再現された映像はニュース的な価値も持っており、ドラマとして事件が取り扱われる速度は、むしろ現在よりも早い。

 といってもタイタニック号の事件は物語のメインではない。メインは予言に翻弄される女性の話である。タイタニック号が沈没するシーンはミニチュアで再現されているが、ちゃちな作りだ。


「LE MYSTERE DES ROCHES DE KADOR」(1912)

 英語題「THE MYSTERY OF THE ROCKS OF KADOR」 製作国フランス
 Société des Etablissements L. Gaumont製作 監督・出演レオンス・ペレ

 多額の遺産を受け継いだスザンヌ。彼女の保護者であるフェルナンドは、遺産目当てでスザンヌ殺害を画策する。

 当時としては長編である45分弱の作品。固定されたカメラで舞台的に撮影されているものの、ロケの効果や淀みない語り口などで飽きさせることのない作品である。最も特徴的なのは、スザンヌの記憶を取り戻すために、事件を再現した映画を撮影してスザンヌに見せるシーンだ。映画内で映画を活用しているという点はもとより、ニュース映像が技術的な問題から一般的ではない時代に「事件の再現」は、映画の大きな役割の1つだった。この作品は、映画のそうした側面を描き出している。


「CALINO DOMPTEUR PAR AMOUR」(1912)

 製作国フランス 英語題「CALINO THE LOVE TAMER」
 Societe; des Etablissements L. Gaumont製作
 監督ジャン・デュラン 出演Clément Mégé、Berthe Dagmar、Édouard Grisollet、ガストン・モド

 当時ゴーモン社で製作されていた短編コメディ「カリノ」シリーズの1編。ひょんなことから、サーカスでライオンを相手することになったカリノが、ライオンを逃してしまい、町は大混乱に陥る。

 ライオンに代表される猛獣は、見世物価値が高いことから国を問わず映画に用いられている。この作品では、混乱に陥り破壊される店が最大の見所。カオスの魅力ということになるのだが、アメリカのスラップスティック・コメディと比べると、どこか上品な印象を受けるのは、恐らく壊される家具などが、きちんと壊されるべく配置され、壊されるべく破壊されているからだろう。舞台を撮影したような視点も、どこか計画されたカオスという印象を与える。



「ZIGOTO PROMENE SES AMIS」(1912)

 製作国フランス 英語題「ZIGOTO'S OUTING WITH FRIENDS」
 Societe; des Etablissements L. Gaumont製作
 監督ジャン・デュラン 出演リュシアン・バタイユ、ガストン・モド

 ジゴトは友達をドライブに誘うが、車が暴走してしまい、散々な目に合う。

 車が暴走して、町を破壊していくカオスが見所。同時期の作品には、同じようなパターン(ライオンに追われた群衆など)で破壊を楽しませる作品が多い。



「OXFORD CONTRE MARTIGUES」(1912)

 製作国フランス 英語題「OXFORD VS. MARTIGUES」
 Societe; des Etablissements L. Gaumont製作
 監督ジャン・デュラン 出演エルネスト・ブルボン、ガストン・モド

 オックスフォードとマルティーグのラグビーの試合は、グラウンドを飛び出して、町全体を巻き込んでいく。

 これまた、ボールを持った選手を他の選手が追いかける過程で破壊活動が行われるというカオスをメインとした作品である。この作品でも、家具は倒れるべく倒れる。本当ならば、そんなに簡単には倒れないはずなのに、簡単に倒れてくれる。この辺りが、アメリカ映画のスラップスティック・コメディの力強さと比べると、上品な印象を与える要因だ。



「ONESIME AUX ENFERS」(1912)

 製作国フランス 英語題「ONESIME GOES TO HELL」
 Societe; des Etablissements L. Gaumont製作
 監督ジャン・デュラン 出演エルネスト・ブルボン、ガストン・モド

 当時ゴーモン社が製作していた短編コメディ「オネジーム」シリーズの1つ。わずかな金の代わりに悪魔に魂を売ったオネジームは、地獄へと連れて行かれる。

 地獄では、ストップモーションを使った入れ替えによる、ジョルジュ・メリエス作品のような映像トリックを駆使した作品になっている。女性たちが警官に変わったり、悪魔が体当たりをしてきたと思ったら消えたりといった内容は、一連のストーリーとして仕立てられている点は他にはないかもしれないが、映像自体はメリエスの作品で多く見てきたため、目新しさはない。ちなみに、メリエスも悪魔をモチーフとしてよく取り上げており、自身も頻繁に悪魔を演じていた。



「CALINO, CHEF DE GARE」(1912)

 製作国フランス 英語題「CALINO, STATION MASTER」
 Societe; des Etablissements L. Gaumont製作
 監督ジャン・デュラン 出演Clément Mégé、Berthe Dagmar、Marie Dorly、ガストン・モド

 当時ゴーモン社で製作されていた短編コメディ「カリノ」シリーズの1編。なぜか駅長になったカリノだが失敗ばかり。乗客たちからはクレームの嵐が押し寄せる。

 一般車に馬が入ってきたり、荷物置場がメチャクチャになったりといった細かいギャグの連続。「カリノ」シリーズ(ひいては、当時のゴーモン社の短編コメディ)に特徴的なカオスは影を潜めている。



「ONESIME VS. ONESIME」(1912)

 製作国フランス 英語題「ONESIME CONTRE ONESIME」
 Societe; des Etablissements L. Gaumont製作
 監督ジャン・デュラン 出演エルネスト・ブルボン、Édouard Grisollet、ガストン・モド

 当時ゴーモン社が製作していた短編コメディ「オネジーム」シリーズの1つ。オネジームが2人に分かれて、片方が悪さを始める。

 字幕では「ジキル博士とハイド氏」の名前が出てくるが、二重人格というよりはドッペルゲンガーに近く、「プラーグの大学生」(1913)に近い内容である。悪い方のオネジームが女中に手を出したりと、コメディ要素はあるものの、全体的な雰囲気は不気味だ。「プラーグの大学生」と同様に、もう1人の自分を殺してしまうが・・・さすがにここはハッピー・エンドに終わっている。



「ZIGOTO ET LA LOCOMOTIVE」(1912)

 製作国フランス 英語題「ZIGOTO DRIVES A LOCOMOTIVE」
 Societe; des Etablissements L. Gaumont製作
 監督ジャン・デュラン 出演リュシアン・バタイユ、アルフォンス・フーシェ、Lonys、ガストン・モド

 汽車の整備を頼まれたジゴトだが、汽車が動き出してしまい、町の中を破壊する。

 当時のゴーモン社の短編コメディの特徴である破壊が魅力の作品。脱線した汽車が破壊していくため、他の作品と似た構成ながらも、スケールが増している。



「LE RAILWAY DE LA MORT」(1912)

 製作国フランス 英語題「THE RAILWAY OF DEATH」
 ゴーモン・インターナショナル製作
 監督ジャン・デュラン 出演Joe Hamman、Max Dhartigny、エルネスト・ブルボン、ガストン・モド

 金の所在を知った2人の男が、先に見つけた方に権利があるために、互いに妨害し合いながら目的地に向かう。

 デュランは当時コメディを多く監督していたが、この作品はシリアスだ。汽車に、船、自動車と、動きを伝える媒体である映画に適した題材を随所に配して、アクション溢れる作品に仕上げている。