ヴァイタグラフ社の作品 1913年

「THE COURAGE OF THE COMMONPLACE」

 家事と農場での仕事の手伝いに忙しい農場の長女は、大学に通いたいと思い金を溜めている。ようやく大学に行ける時が近づいてくるも馬が病気になってしまい、家族は経済的に追い込まれる。長女は大学を諦め、学費に溜めていた金を差し出して新しい馬を買う。

 当時、農家の教育問題は立ち遅れており、そういった現実を反映している。だが、この作品はそれよりも、ひたすら働きながら大学へ通うことを夢みる長女の健気さに胸打たれる作品だ。ロケが中心で撮影されていることや、髪のボサボサさがリアルさを感じさせる長女を演じるメアリー・チャールソンの演技もあり、イタリアン・レアリスモを思わせる作品だ。


「THE NEW FIRE CHIEF」(1913)

 製作国アメリカ ヴァイタグラフ・カンパニー・オブ・アメリカ製作 ジェネラル・フィルム・カンパニー配給
 監督・脚本ラルフ・インス 出演ヒュー・マック

 ファッティは恋する女性が他の男性に奪われそうになり、ボクシングを習って奪い返す。

 当時、ヴァイタグラフ社は多くの短編コメディを作っていたが、キーストン社のようなスピード感を持った作品は製作しなかったという。その点でも、キーストン社の、ひいてはマック・セネットのオリジナリティがいかに優れていたかが分かる。

 主人公のヒュー・マックは巨漢のコメディアン。タイトルからして、ロスコー・アーバックル主演作だと思い込んでみたら、別の「ファッティ」だった。ギャグといえるギャグはないが、常に破れているが誰も突っ込まないファッティのズボンが面白い。


「FATHER'S HATBAND」(1913)

 製作国アメリカ ヴァイタグラフ・カンパニー・オブ・アメリカ製作 ジェネラル・フィルム・カンパニー配給
 監督・出演ヴァン・ダイク・ブルック 脚本モンテ・M・カッタージョン 出演ノーマ・タルマッジ、レオ・デラニ

 父親の帽子に手紙を忍び込ませて文通している、男女。父親が理髪店で帽子を取り間違えてしまったことから、混乱が起こる。

 軽い内容のコメディ。ジョン・バニーの相手役として知られるフローラ・フィンチが、嫉妬深い妻役をコミカルに演じている。


「AN OLD MAN'S LOVE STORY」(1913)

 製作国アメリカ ヴァイタグラフ・カンパニー・オブ・アメリカ製作 ジェネラル・フィルム・カンパニー配給
 監督・出演ヴァン・ダイク・ブルック 脚本W・A・トレメイン 出演ノーマ・タルマッジ、ジェームズ・ラッカイ

 金のために、愛する人がいながら父親の旧友グレイソーンの求婚を受け入れるエセル。だが、グレイソーンはエセルが苦しんでいることを知り・・・。

 当時は30分弱の短編による小話が映画主流だったが、この作品もその1つである。ノーマ・タルマッジが話の中心となるヒロインのエセルを堂々と演じて見せれば、監督も務めるブルックは大人としての分別と優しさを兼ね備えたグレイソーンを地味だが堅実で温かみのある演技で見せる。

 エセルも、エセルの恋人も、エセルの両親も幸せにするグレイソーンの自己犠牲による結末といい、こういう作品を「佳作」と言うのだろうな、という気持ちにさせられた。


「THE LOCKET, OR WHEN SHE WAS TWENTY」(1913)

 製作国アメリカ ヴァイタグラフ・カンパニー・オブ・アメリカ製作 ジェネラル・フィルム・カンパニー配給
 監督フレデリック・A・トムソン 出演ジョン・バニー、フローラ・フィンチ、リア・ベアード、ロバート・ゲイラード

 ヴァイタグラフ社で人気を呼んだバニーとフィンチのコンビによる作品。若い女性が間違えてバニーのポケットに入れた女性の写真が映ったロケットを、バニーの妻が見つけて大騒ぎとなる。

 太ったバニーと、やせっぽちのフィンチのコンビは見た目に加えて、大らかなバニーとせっかちなフィンチという個性の違いからくる面白さも持っている。この作品でも、フィンチはロケットを見つけるや否や、荷物をまとめて実家に帰ってしまうのが面白い。