「FANTOMAS(ファントマ)」評

 ゴーモン社製作、ルイ・フイヤード監督。

 「FANTOMAS(ファントマ)」と言えば、連続映画の代表的作品の1つであり、他にも多くの連続映画を監督したルイ・フイヤードの名前と共に、名を残している。

 連続映画の火付け役と言えば、同じくフランスのヴィクトラン・ジャッセが監督して「ジゴマ」(1912)と言われている。「ファントマ」や「ジゴマ」は日本でも公開され、子供たちに悪影響を与えるという理由で上映禁止運動なども起こったと言われている。

 実際に「ファントマ」を見てみると、上映禁止運動になったの理由もわかる。とにかく悪漢であるファントマが残忍なのだ。ひたすら金のために生きる。手際は鮮やかだが、目的遂行のためならば犠牲はいとわない。身内でさえ平気で裏切る。同じルイ・フイヤードが後に監督する「LES VAMPIRES」(1915)もファントマと同じようなギャングを主人公としているが、同じ犯罪を描いていても趣が異なる。「LES VAMPIRES」のメンバーも殺人を犯すのだが、ありえない巨大なキャノン砲が登場したりといった荒唐無稽さが、「LES VAMPIRES」を「映画ですよ」と言っているような雰囲気があった。それはどこか007やルパン三世に似た雰囲気でもあった。

 「ファントマ」の内容も荒唐無稽である。ファントマがちょっと変装すれば、みんな簡単に騙されてしまったり、せっかく捕まえたファントマにあっさり逃げられてしまったりといった部分は荒唐無稽だ。だが、映画は荒唐無稽さよりも残忍さの方に重きを置いているように思える。肉体的な面では、ファントマが1人の男を殺害して、その男の手の皮で手袋を作るという展開が最たるものだろう。目的は、指紋を変えることで捜査を混乱させるというためだけである。心理的な面では、女性へのいたぶりが凄まじい。愛していないのに、愛しているかのような素振りを見せて、1人の女性を自分の手先として使う。しかも、用がなくなったらどこかへ消えて行ってしまう。

 「LES VAMPIRES」で犯罪者に肩入れした映画を作っているという非難があり、「JUDEX」(1916)では系統を変えてメロドラマ的な連続映画が作られることになる。しかし、「LES VAMPIRES」は「FANTOMAS」の前には、残忍さの面においては負けている。

 女性がほとんど主要人物として登場しないという点も映画の残忍さを引き立たせているのではないかと思う。「LES VAMPIRES」や「JUDEX」に登場する女優ミュジドラは、映画に華を与えることに成功していた。しかし、「ファントマ」に登場する女性たちは、みなそろってファントマの犠牲者たちばかりなのだ。

 「LES VAMPIRES」の方が映画の出来としてはいいのではないかと思う。脇役の設定もおもしろいし、回を重ねていくごとに登場人物たちに親密感を感じていくという連続映画の特徴もうまく生かしたストーリー展開となっている。だが、「ファントマ」には、「LES VAMPIRES」のような計算ではない、毎回ファントマの残忍さを見せつける設定がひねり出されたエネルギーが感じられる。5つのパートに分かれて公開された「ファントマ」は、最後はファントマが再び自由になり悪の限りを尽くすことを予感させて終わる。第一次大戦によってやむなく中断された「ファントマ」シリーズは、最後の最後まで勧善懲悪とはならず、悪の勝利のまま終わる。意図しての形ではないが、残忍さが印象に残る「ファントマ」に取ってはこの終わり方が最も適しているように思える。

 「ファントマ」のヒットは、残忍さという見世物的な側面が、連続映画の形であっても観客にとって魅力的であることを示しているように思える。当時の人々は、ファントマが逮捕されることを望んで毎週映画館に通っていたのでは決してないことは断言してもよいと思う。当時の人々は、ファントマが悪の限りを尽くすところを見るために映画館に通ったはずだ。



(DVD紹介)

「FANTOMAS」

 フランス連続映画の代表作の1つ。全話合計すると335分と見応えがある。

 イギリスのamazonから輸入して買うことができるが、もちろん英語。それでも買いたいと思う人は、下記サイトが参考になります。

http://dvd.or.tv/
 
注意!・・・「リージョン2」のDVDです。「リージョン2」対応のプレイヤーが必要です。