フランス ゴーモン社の作品 1913年

「ERREUR TRAGIQUE」(1913)

 英語題「TRAGIC ERROR」 製作国フランス
 Société des Etablissements L. Gaumont製作 監督・脚本ルイ・フイヤード

 映画を見に行った男。映画内に妻が他の男と腕を組んで歩いているのを発見する。そして、妻の元にロジャーという男から手紙が。嫉妬した男は、妻が乗った馬車を引く馬が暴走するように仕向けるが、ロジャーは実は妻の兄で・・・。

 あまりにも早合点の男の、あまりにも軽率な行動が引き起こす悲劇。しかも、あまりにもご都合主義的に妻は助かる。撮影方法に工夫があるわけでもなく、映画史を塗り替えたような作品ではない。だが、当時の観客を喜ばせた標準的な作品がどういうものであったか、それを知ることがはできるだろう。


「BOUT DE ZAN VOLE UN ELEPHANT」(1913)

 英語題「BOUT DE ZAN STEALS AN ELEPHANT」 製作国フランス
 Société des Etablissements L. Gaumont製作 監督・脚本ルイ・フイヤード

 ゴーモン社が当時シリーズ化して製作していた、少年ブー・ド・ザンを主人公にした短編コメディの1つ。ブー・ド・ザンがサーカス一座の小象を連れて来てしまうことで起こるドタバタを描く。

 とにもかくにも、芸達者な象の魅力が光る。鼻を巧みに使い、時にお金を受け取ってブー・ド・ザンに渡して見せ、時にフォークを使って皿の上の食べ物を口に運ぶ。それだけと言ってしまえばそれまでだが、楽しい作品である。


「L’AGONY DE BYZANCE」(1913)

 英語題「THE AGONY OF BYZANCE」 製作国フランス
 Société des Etablissements L. Gaumont製作 監督ルイ・フイヤード

 1453年に行われた、オスマン帝国による東ローマ帝国の首都コンスタンティノープルへの攻撃を描いた作品である。当時としては長い30分の作品で、コンスタンティノープル包囲線を始め、豪華な宮廷やコスチュームなど史劇というにふさわしい堂々たる作品である。

 オスマン帝国が用いたという巨大な大砲や、敵に包囲された絶望的な戦況で東ローマ皇帝コンスタンティノス11世が臣下の者に1人ずつ声をかける様子など、歴史書に描かれた出来事がきっちりと描かれている。一方で、ミクロな視点でのドラマがないため、歴史のお勉強をしているような気持ちにもなる。

 演出の面でいうと、豪華だし、派手なのだが、どこか舞台的な息吹を残している。それは、登場人物の動きであったり、当たって痛くなさそうな石であったりする。

 こうした映画を見ると、D・W・グリフィスの功績が、「国民の創生」(1915)の功績が分かる。グリフィスは史劇とミクロのドラマを融合させ、刺激にリアリティを与えた。グリフィスは偉大だ。


「L’ENFANT DE PARIS」(1913)

 英語題「THE CHILD OF PARIS」 製作国フランス
 Société des Etablissements L. Gaumont製作 監督・脚本・出演レオンス・ペレ

 裕福な家庭に育った少女。父親が出征で死に、母親はショックから病気になり死んでしまう。施設に送られた少女だが、環境に馴染めずに逃げ出す。少女を拾った男は、靴職人の仕事をさせ、少女を奴隷のように扱う。同じく靴職人の仕事を手伝っていた青年は、少女の世話をしてやる。

 125分の作品で、1913年当時においては大作だ。メロドラマであり、サスペンスでもあり、アクションもあるという盛り沢山の娯楽作となっている。ペレの演出は丁寧で淀みないのだが、映像的な工夫に欠け、一言で書くとあまり面白くない。とはいえ、長い時間をかけた物語を映画として描きだそうという意欲は買わなければならない。


「ONESIME SE MARIE, CALINO AUSSI」(1913)

 製作国フランス 英語題「ONESIME GETS MARRIED…SO DOES CALINO」
 監督ジャン・デュラン 出演エルネスト・ブルボン、Berthe Dagmar ガストン・モド、Clément Mégé

 オネジームとカリノがたまたま同じ日に結婚式を挙げることになり、大騒動に展開する。

 エルネスト・ブルボン演じる「オネジーム」シリーズと、Clément Mégé演じる「カリノ」シリーズは、どちらもジャン・デュランが監督した短編コメディだった。それぞれ人気があったとということで、2人を架け合わせたら、より面白さも大きくなり、観客の注目も集めるだろうということで作られたのだろう。

 内容は、破壊の楽しさがメインになっており、「カリノ」シリーズに近いものとなっている。


「ONESIME ET L'HERITAGE DE CALINO」(1913)

 製作国フランス 英語題「ONESIME: CALINO'S INHERITANCE」
 監督ジャン・デュラン 出演エルネスト・ブルボン、Clément Mégé、ガストン・モド、Édouard Grisollet

 カリノが手にするはずの遺産の所在を探すために、オネジームが雇われる。

 「オネジーム」と「カリノ」の2大コメディアン共演作だが、オネジームのメインでカリノはおまけだ。「オネジーム」はシュールなギャグが特徴で、この作品でもストップモーションを使って一瞬で着替えたり、階段を転がり上る姿を逆回しで描いてみせてくれたりする。最も面白かったのは、悪い奴らに埋められたオネジームが、春になると植物のように地中から登場するギャグだ。


「ONESIME AIME LES BETES」(1913)

 製作国フランス 英語題「ONESIME LOVES ANIMALS」
 監督ジャン・デュラン 出演エルネスト・ブルボン、ガストン・モド

 ペットを預かって欲しいという友人の依頼を、動物好きのオネジームは引き受けてしまう。

 オネジームの部屋は、犬や馬に加えて豚や牛までやって来るが、動物好きのオネジームは嬉々としているのが見ていて楽しい。何と、豚と一緒にエサを食べたり水を飲んだりするのだ。


「ONESIME DRESSEUR D'HOMMES ET DE CHEVAUX」(1913)

 製作国フランス 英語題「ONESIME, TRAINER OF MEN AND HORSES」
 監督ジャン・デュラン 出演エルネスト・ブルボン、ガストン・モド

 アメリカの西部へやって来たオネジームは、カウガールを巡って荒くれ男に命を狙われる。

 スラップスティック色が強い作品。オネジーム作品の特徴の1つに、カメラトリックの多用があるのだが、この作品はアメリカのスラップスティック・コメディを思わせる印象を受けた。

 大量のカタツムリが穴に落ちたオネジームの上にかけられるギャグは気持ち悪い。生理的な問題だと思うが。


「ONESEME ET LE COEUR DU TZIGANE」(1913)

 製作国フランス 英語題「ONESIME AND THE HEART OF A GYPSY」
 Societe; des Etablissements L. Gaumont製作
 監督ジャン・デュラン 脚本アンリ・ド・ブリセー 撮影Paul Castanet
 出演エルネスト・ブルボン、Berthe Dagmar、Édouard Grisollet、アルフォンス・フーシェ、Hector Gendre

 ジプシーがマンドリンで弾くワルツは、オネジーム夫妻を始め、あらゆる人が踊らずにはいられなかった。

 ジプシーがワルツを弾くと、どんなに疲れていても、何をやっていても踊らずにはいられなくなる。その様子を早回しを使って見せたり、オネジーム夫妻のアクロバティックな動きで見せたりする。さらには、ホテルで働くコックや女中が、物を相手にワルツを踊り出す。

 コメディとは異なる印象を与える非常に幻想的な作品だ。ジョルジュ・メリエス流の映像トリックは、フランスの伝統とも言えるが、この作品はメリエスが辿りつけなかった幻想性を持っている。ラスト、マンドリンの音に操られ、オネジーム夫妻は海へと消えていく・・・そこに理由などなくても、説明などなくても、このラストは正しいように感じられる。それほど幻想的な作品だ。


「ONESIME, TU L'EPOUSERAS QUAND MEME!」(1913)

 製作国フランス 英語題「ONESIME, YOU'LL GET MARRIED…OR ELSE!」
 監督ジャン・デュラン 出演エルネスト・ブルボン、ガストン・モド

 花嫁探しクジに当たったオネジームだったが、花嫁が年を取っていたために逃げ出す。

 階段を駆け降りてオネジームや彼を追いかける男たちをコマ送りで描いて見せたりと、映像トリックを駆使した「オネジーム」シリーズの特徴は見られるものの、全体的には見所に欠ける作品のように感じられた。


「ONESIME DEBUTE AU THEATRE」(1913)

 製作国フランス 英語題「ONESIME'S THEATRICAL DEBUT」
 監督ジャン・デュラン 撮影Paul Castanet
 出演エルネスト・ブルボン、Berthe Dagmar、Mademoiselle Davrières、ガストン・モド

 オペラ女優に恋したオネジームは、オペラ歌手に変装して舞台に立つが、バレてしまい追いかけられる。

 オペラ座(?)の屋上に逃げ込んだ際の映像が見事。遠くにエッフェル塔も見え、当時のパリの空気感を感じる上に、迫力もある。

 「オネジーム」シリーズの特徴である映像トリックも効果を発揮している。オペラ女優に近づけないでオネジームを誘うように手だけが空中に浮かび、手招きするのだ。ギャグではないが、ワンアイデアだとしたも、ここの幻想性はなかなかのものだ。


「UN DRAME DE L'AIR」(1913)

 製作国フランス 英語題「A DRAMA OF THE AIR
 Societe; des Etablissements L. Gaumont製作
 監督ルネ・ル・ソンティエ 出演Armand Dutertre、ジョルジュ・メルシオル、ジャンヌ・マリー=ローラン

 空を飛ぶ機械の研究をしている発明家。貧しい生活を支えるのは妻や娘たちだった。ある日、娘が病で倒れてしまう。発明家は金を得るために飛行機コンテストで、発明した機械を飛ばそうとするが、危険が伴うものだった。

 1人の男の夢と、家族への愛を描いた作品である。舞台を撮影したような演出は工夫に欠け、肝心の飛行シーンも捉えられていない。こういった作品を見ると、ドラマの分野におけるD・W・グリフィスの地位と意識の高さを感じる。


「JEUX D'ENFANTS」(1913)

 製作国フランス 英語題「CHAILD'S PLAY」
 ゴーモン製作 監督アンリ・フェスクール

 傲慢な資本家の娘が、工場で遊んでいて閉じ込められてしまう。その危機を救ったのは、娘がかつて意地悪をした少年だった。

 工場の機械で押しつぶされそうになる少女の姿と、危機を救う少年の姿がカット・バックで描かれており、D・W・グリフィス作品の影響が感じられる。