キーストン社の作品「A MOVIE STAR」

 キーストン社製作。

 舞台は映画館。上映している映画の主役を演じているジャックが、映画を見にやってくる。大歓迎の劇場主や女性客たち、嫉妬する女性客の夫たち、ジャックの演技を馬鹿にするシェイクスピア役者などを前に、映画が上映される。

 マック・セネットに指揮されていたキーストン社は、当初は即興によるギャグで映画を撮影していた。舞台も近場の公園を使い、警官や泥棒を登場させたドタバタで1本の映画を簡単に完成させていた。しかし、この頃になるとそういったインスピレーションによる映画撮影も行き詰まり、きちんとした脚本を元にした撮影が行われるようになっていた。この作品も、脚本を元に作られた作品で、映画スターを巡る人々の様子を丁寧に描いた作品となっている。

 映画内映画の主役を演じているジャックは虚栄心が強く、観客たちがちょっとでも盛り上がっていないと感じると、自ら進んで拍手をして場を盛り上げる。観客を呼ぶためにジャックを使おうと必死の劇場主は、映画の途中にも関わらず、一旦フィルムを止めてジャックに観客たちへの挨拶を頼む。映画を見に来ていたシェイクスピア役者は、「映画スター」であるジャックを、露骨に馬鹿にした態度を取る。ジャックの登場に熱狂する妻を苦々しく思った夫は、ジャックが座るイスにピンを置いて嫌がらせをする・・・といった細かいギャグが散りばめられ、知性を感じさせる映画である。かつてのキーストン映画が、思いつきと勢いで作られていたのとは大違いだ。

 映画の中で上映されるジャックが主役の映画は、チャールズ・チャップリンの映画に出てきそうな物語だ。田舎に住む主人公は1人の女性に惚れている。そこに都会からやってきた男が、女性を奪っていきそうになる・・・という内容で、当時エッサネイ社からミューチュアル社へと移籍したチャップリンは、この手の作品でペーソスを前面に押し出して人気を高めていく。

 ちなみに、この年にはキーストン社からロスコー・アーバックルが退社している。巨漢の人気者だったアーバックルに代わって、キーストン社のスターに選ばれたのがこの映画の主演だったマック・スウェインだった。スウェインは、後にチャップリンの「黄金狂時代」(1925)でチャップリンと山小屋に閉じ込められる役柄を演じることになる。

 この作品は、映画のコメディの分野にも様々な工夫が必要な時代へと移り変わっていったことの証明とも言える作品である。チャップリンのような芸や、アーバックルのような愛嬌がなければ、この作品のように知恵を絞らなければならない。理由なきドタバタで荒稼ぎできた、ボロ儲けの時代は終わっていたのだろうと思う。