ロスコー・アーバックル主演作「A RECKLESS ROMEO(デブ君の化けの皮)」

 製作国アメリカ コミック・フィルム製作 パラマウント・ピクチャーズ配給
 監督・脚本・出演ロスコー・アーバックル 出演アル・セント・ジョン

 ファッティ演じる夫は、妻と義理の母親に頭が上がらない。ある日、遊園地に遊びに行ったファッティは、妻と義理の母親の目を盗んで若い人妻にちょっかいを出すが、人妻の夫にぶちのめされてケガをする。ケガの理由を、目の見えない人の金を盗もうとした男たちと乱闘になったと説明するファッティ。だが、ある日妻たちと映画館へ行くと、いつの間にか撮影されていたファッティが人妻にちょっかいを出すフィルムが上映されてしまう。

 アウトラインは、アーバックルの作品ではよくあるパターンといってもいいだろう。頭の上がらない妻、他の女性にちょっかいを出すファッティ、女性が付き合っている男性(または夫)とケンカになるというパターンは、多く使われている。

 このパターンは、バスター・キートンのチームへの加入以後は、変化をしていく。アーバックル、アル・セント・ジョンという2人の主要役者にキートンが加わることによって、物語に幅が持てるようになっていく。この作品は、キートンがチームに加入する直前の作品であり、いつものパターンはかなり成熟して完成の域に達しているかのような印象を受ける。

 これまでなら、単純に女性にちょっかいを出してケンカになってというだけだったが、ファッティが妻をごまかすために自分をカッコよく見せるための作り話をでっち上げ、回想シーンの形で表現するという手法が取られていることで、直線的な物語にはないヒネりが加えられている。カメラマンによって撮影されていたために、ファッティの嘘がバレるという展開自体は、チャールズ・チャップリンの「幻燈会」(1914)でも使われているし、おそらく当時の他の作品でも広く使われていたのではないかと思われる。ただし、この作品では映画内の格闘の同じように、ファッティとアル・セント・ジョンが戦ってみせるといったヒネリが加わっている。

 もう1つ注目すべきはラスト。嘘がばれて、妻たちに問い詰められるファッティは、その状況から抜け出すための妙案を思いつく。足元に落ちていた石を拾い上げると、近くの商店の窓に投げつけるのだ。当然、警官に捕まるファッティ。しかし、ファッティにとっては、妻や義理の母親による牢獄よりは留置場の方が楽しいらしく、笑顔で挨拶しながら警官に連れられていく。むしろ、警官を連れていく。

 アーバックルの作品には、混沌が深まって終わるというパターンも多いが、この作品はオチまでしっかりと決まっている。アーバックルおなじみのパターンが成熟していることの1つの表れと言えるのではないか。