映画評「臆病者」

 原題「THE MOLLYCODDLE」 製作国アメリ
 ダグラス・フェアバンクス・ピクチャーズ製作 ユナイテッド・アーティスツ配給
 監督ヴィクター・フレミング 出演ダグラス・フェアバンクスウォーレス・ビアリー

 アリゾナのガンマンの血を引くアメリカ人のマーシャルは、今やヨーロッパ流に洗練されていた。モンテ・カルロで出会った男女と共に船でアメリカへ戻ることになったマーシャルだったが、アリゾナネイティブ・アメリカンにダイヤモンドを盗掘させているホーカーに、捜査官と勘違いされてしまう。

 メッセージは明確だ。ヨーロッパ流に過剰に洗練された社会でもなく、ネイティブ・アメリカンのように自然と共に生きるというだけではなく、その中間でバランスを保った社会、それこそがアメリカ社会だということである。ラストで「CIVILIZED」と「PRIMITIVE」の文字の後に、それぞれヨーロッパ人とネイティブ・アメリカンが映し出されという分かりやすさである。

 この主張はうるさく感じられる。だが、それを体現しているダグラス・フェアバンクスの活躍は楽しい。これまでに作られたダグラス・フェアバンクスの作品と比較して、新鮮な部分が多くあるかと言われると、そうでもない。だが、様々な映像テクニックを駆使した、上質のフェアバンクスになっていることは確かだ。

 それは、アニメを使ってホーカーの悪事を説明して見せたりとか、ミニチュアとセット撮影と実景を編集でつなぎ合わせた崖崩れだったりする。さらには、フェアバンクスが崖から近くの木の幹に飛び移るシーンなどで、その身体能力の高さを見せ付けてくれる。

 フェアバンクスの主張は、少し押し付けがましい。その傾向は徐々に強くなっていく。だが、それを体現するフェアバンクスがいる限り、映画は楽しさを失わないだろう。今現在、フェアバンクスのように、自らのメッセージを織り込みながらも人々を楽しませる映画を作り続ける映画人の名前を挙げられるだろうか?その意味で、ダグラス・フェアバンクスの映画には、フェアバンクスの刻印が刻み込まれているといえる。