「シーク」 更に高まるルドルフ・ヴァレンティノの人気

 「黙示録の四騎士」(1921)でスターとなったルドルフ・ヴァレンティノは、自身を主役に推薦してくれた恩人の脚本家ジューン・マジスと共に、パラマウントに移籍する。パラマウントへと移籍したヴァレンティノは、続けて「シーク」(1921)に出演している。

 「シーク」でのヴァレンティノは、アラビアの族長を演じている。ハーレムを持っていない族長は、女性観客に自分こそが「唯一の女性」と思わせることができた。ヴァレンティノは相手を服従させようとする一方で紳士的な面も見せた。さらには、濃密なキスシーンを披露している(目にライトを当てて瞳をきらめかせ、女性観客の心を釘付けにしたと言われる)。アメリカ国内だけで100万ドル近い興行収入の大ヒットとなり、名声と地位を確実なものとしている(製作費は少なく、最もかかったのは原作の映画化権料の5万ドル)。

 ヴァレンティノの人気は女性からのものが中心だった。女性ファンは、スクリーンでヴァレンティノに見つめられるからと、念入りに化粧をして映画館に行ったとまで言われている。当時のアメリカの女性たちは、ヴァレンティノの中に理想の恋人像を見出していたが、それは一般の男性が果たせないものだった。そのために、むしろ男性たちの中には反感を抱くものもいた。

 ヴァレンティノの成功は、映画会社に多大な利益をもたらした。しかし、ヴァレンティノは成功に見合うだけの十分な報酬がもらえていないと感じていた。「シーク」(1921)は300万ドルを超える収入をあげていたが、当時のヴァレンティノの週給は1,200ドルで、他のスターと比べて少なかったという。また、映画に出演する一方で、宣伝のために毎晩選ばれた若い娘とタンゴを踊る巡業も行っていた。ヴァレンティノは搾取されていると主張するも通らず、自分が手に入れるべき利益を奪われているという憤りから家や自動車などの浪費を始めたと言われる。その後、パラマウントとの契約を映画1本につき10万ドルに変更することに成功し、ヴァレンティノはハリウッドに大邸宅を建てている。

 ヴァレンティノの人気は高まり、当時のアンケートの1つでは「恋人としてはヴァレンティノ、夫としてはウィリアム・S・ハート」という結果が出たという。また、パラマウント社自体のポスターに書かれたスターの名前のランキングでも、ヴァレンティノがトップに立ち続けたという。一方で、ヴァレンティノの人気を「最悪に行きすぎたアメリカのスター・システムの典型的な産物」(ジョルジュ・サドゥール「世界映画全史」)と捉える声もある。

世界映画全史 (10)

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