ルドルフ・ヴァレンティノの華麗なる登場 「黙示録の四騎士」

 純朴なイメージのリチャード・バーセルメスの代表作「乗合馬車」(1921)が公開されたこの年、バーセルメスのイメージと正反対とも言える魅力で、大人気を得ていくスターが表舞台に立つ。「グレート・ラヴァー」の愛称で人気を呼ぶことになるルドルフ・ヴァレンティノがその人である。

 ヴァレンティノは、ヴィセンテ・ブラスコ・イバニェスの小説の映画化であり、レックス・イングラムが監督を担当した「黙示録の四騎士」(1921)に出演した。アルゼンチンの青年役を演じ、情熱的でセクシーなタンゴを披露している。映画はヒットして、それまで下り坂の女優の助演者に過ぎなかったヴァレンティノは、一躍トップ・スターに躍り出る。

 「黙示録の四騎士」の主役選びは、難航していた。メキシコ人ダンサーのラモン・サマニヨゴス(後のラモン・ノヴァロ)に決定しかかったとき、脚本家で「黙示録の四騎士」の脚色を担当したジューン・マジスがヴァレンティに目を留めて主役に推薦した。マジスは、「若き人の眼」(1919)を見てヴァレンティノの魅力に気付いたと言われる。「若き人の眼」には、ヴァレンティノの特技であるダンサーとしての特技を見ることができたという。また、「盗まれた瞬間」(1920)にも、ヴァレンティノの魅力が垣間見えていたという。

 「黙示録の四騎士」はヴァレンティノの魅力の多様さを示すために構成されている。攻撃的な性的魅力、誘惑、拒絶、父との和解、戦場での英雄的行動といった様々な側面が描かれる。「黙示録の四騎士」は、1人の男優の魅力を構成する上で最も成功した例とも言われている。

 話題を呼んだタンゴのシーンは、ヴァレンティノが見事に演じたため、予定よりも長い時間をかけて撮影されたという。また、タンゴのシーンだけではなく、監督のイングラムはヴァレンティノの魅力を見抜き、魅力が生きるように演出、編集したと言われている。

 「黙示録の四騎士」を製作したメトロ社は、興行的な価値があるとは思っていなかった(一方で、「黙示録の四騎士」は社運を賭けた大作で、失敗すれば倒産の可能性もあったという指摘もある)。だが、公開してみると大ヒットを記録し(64万ドルの経費で450万ドルの興行収入)、1921年最高の成功作となった。当時、ヴァレンティノは週給450ドルだった。映画のヒットを受けて昇給を申し出たが、メトロ社は会社の宣伝のためにヒットしたとして、昇給を拒否した。そのため、ヴァレンティノはパラマウントへと移籍する(週給1,200ドルの4年契約)。一方で、監督のイングラムは自分の力によって成功したと考えていたという。

 この後ヴァレンティノは、当時の大女優で、自身の独立プロダクションで映画製作を行っていたアラ・ナジモヴァ主演の「椿姫」(1921)に出演している。そこには、当時ナジモヴァ作品の美術デザイナーを担当していたナターシャ・ランボヴァという女性がいた。ヴァレンティノとランボヴァは恋に落ち、1923年に結婚することになる。ちなみに、「椿姫」は興行的には失敗に終わっている。

スターダム―ハリウッド現象の光と影

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