映画評「名花サッフォー」

 製作国ドイツ 原題「SAPPHO」 英語題「MAD LOVE」 PAGU(パーグ)製作、UFA(ウーファ)配給
 監督・脚本ディミトリー・ブコエツキー 出演ポーラ・ネグリアルフレード・アーペル

 精神病院に入院した兄を見舞うリシャール。原因をたどるうちに、サッフォーという名の美しい女性に出会い、2人は恋に落ちる。だが、兄を狂気に陥れたのは、サッフォーの妖婦ぶりだったことを知り、リシャールはサッフォーの元を去り、他の女性との結婚を決意。それでも、リシャールはサッフォーのことを忘れられない。

 いわゆる「ヴァンプもの」と呼ばれる悪女が男性を不幸に陥らせるタイプの作品である。ネグリは、大きな眼と妖艶な動きを武器に、「ヴァンプ」タイプの女性を多く演じて人気を得た。「名花サッフォー」でも金髪のウィッグを使用したりして、工夫を凝らしてヴァンプを演じている。だが、どこか物足りなさを感じた。

 その理由は、演出・演技共に突き抜けていないからだろう。ヴァンプものの嚆矢と言われる「愚者ありき」(1915)は、徹底的な省略法によってヴァンプを描いた。どんな手練手管を使っているかは見る者に対して明らかではない。ヴァンプにメロメロになる男だけを見せることで、ヴァンプの実力は見る者の想像力に委ねられたのだった(それぞれが想像する最強のヴァンプ、それが「愚者ありき」のヴァンプなのだ)。

 「名花サッフォー」では、ヴァンプぶりが明らかになっている。ブコエツキーのストレートな演出は、ストレートにネグリのヴァンプぶりを見られるように作られている。ネグリの目つきが、喋りが、動きがそうだ。だが、果たして「名花サッフォー」のネグリのヴァンプは、見る者を魅了するものだろうか?少なくとも私は違った。ここには個人差が存在する。