ハリー・フーディーニの「氷原より激流へ」

 脱出物を得意とした奇術師で、映画にも進出していたハリー・フーディーニはこの年、主演映画「氷原より激流へ」(1922)を製作・主演している。

 原案もフーディーニが担当したこの作品は、ナイアガラの滝などで18週に及んで撮影された。

 100年にわたり氷漬けにされていた男が復活し、1人の女性をかつての恋人の生まれ変わりと信じ込むという内容で、活劇スターからの脱却が試みられ、冒頭にはヨハネ伝の引用がされている。霊魂の再来、魂の不滅に肯定的なメッセージが込められている。

 フーディーニは1913年に母が死んで以来、来世を信じたい気持ちになり、1920年にコナン・ドイル(「シャーロック・ホームズ」シリーズの原作者で心霊の世界を信じていた)と会って、心霊の世界に魅せられていたという。だが、映画のラストのセリフは魂の存在に懐疑的であり、後にドイルとも決別し、心霊術師のトリック暴きを行うようになる。

 アクションは素晴らしく、特にクライマックスのナイアガラの救出シーンは他に真似ができないものだったという。フーディーニはこれ以上にスリルある場面を作ったプロデューサーには5千ドルを進呈すると語るほどだった。

 ニューヨークでは、3週間にわたってフーディーニによる縄抜けの実演つきの舞台挨拶を行うなど、献身的な宣伝もありヒットとなっている。

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