映画評「豪勇ロイド」
製作国アメリカ 原題「GRANDMA'S BOY」
ハル・ローチ・ステュディオズ製作 アソシエイテッド・エキジビターズ配給
監督フレッド・ニューメイヤー 原作ハル・ローチ、サム・テイラー、ジーン・ハヴェツ 脚本T・J・クリツァー
撮影ウォルター・ランディン 出演ハロルド・ロイド、ミルドレッド・デイヴィス、アンナ・タウンゼント
この頃の喜劇の多くは2巻もの(20分程度)の短編がほとんどだった。「豪勇ロイド」も、元々は2巻ものとして計画されたらしいが、出来上がってみるとハロルド・ロイド初の長編(約1時間)の作品となった。
ロイドはチャップリンとキートンと並び、サイレント期の三大喜劇俳優に挙げられる。チャップリンには筆舌に尽くしがたいパントマイム芸と、浮浪者が醸し出すペーソス(哀愁)がある。キートンには見事なアクロバティックな動きと、家や自動車、船に汽車といった装置を巧みに使ったアイデアがあった。
それでは、ロイドには何があったかというと、そこには巧みなストーリーがある。ロイドといえば「平均的なアメリカ人」を演じて人気を得たという評価がされている。確かにそれはその通りだ。だがそこには、パッと見ただけで分かる魅力があるわけではない。
ロイドが人気を得た「平均的なアメリカ人」が魅力を持つためには、巧みなストーリーが必要だったのだ。ロイドは短編から大きな人気を得ていたチャップリンやキートンと異なり、長編になってから人気を得ている。その理由は、ロイドには時間をかけたストーリーが必要だったことを意味しているように思える。
弱気な主人公のロイドが、祖母から「魔法のお守り」をもらって勇気を奮い起こして、街で乱暴を働く浮浪者や、恋のライバルを打ちのめすというのが、「豪勇ロイド」のストーリーだ。「魔法のお守り」の説明のシーンでは、ロイドの祖父(ロイドが二役で演じている)が、「魔法のお守り」の力によって南北戦争で活躍するシークエンスが挿入される。
臆病者のロイドが闇夜の中で逃げ回るシーンや、祖父の南北戦争での活躍のシーンは、それぞれだけで十分にそれまでロイドが製作してきた2巻物の映画として成立することができる。だが、そういった2巻もので成立するエピソードをパズルのように組み合わせて、「弱気な主人公が、おばあちゃんの助けを借りて、勇気を得るまでの物語」を完成させている。言い換えれば、ハロルド・ロイドという主人公を観客に説明して、観客に共感させ、ストーリーに変化をもたせ、オチをつけている。
優しげなおばあちゃんの描写(ロイドの活躍を見てダンスまで披露する)、ロイドのおっちょこちょいぶりといった描写がなければ、観客はロイド(とおばあちゃん)に共感することはないことだろう。ロイドのキャラクターを活かすためには、1時間の時間が必要なのだ。
ロイドの演技は、チャップリンやキートンと比べて、決して芸や技を感じるものではない。だが、それゆえに観客の共感を得やすい。ロイドがお守りを持つことで勇気を振り絞って活躍する様子はどこか危なっかしい。ライバルとの殴り合いの対決シーンは1発殴っては1発殴られ、倒れては起き上がり、まるで気力だけで戦っているかのようだ。納屋の2階から落ちたりといったアクションも、キートンならばその絶技にほれぼれするだけなのだが、ロイドだとハラハラさせられる。「豪勇ロイド」のアクションは、ギャグはまじえられているものの、まるでシリアスなドラマを見ているかのようだ。
また、「豪勇ロイド」の主人公が古き良き時代を象徴しているかのように描かれている点にも触れるべきだろう。新しいスーツを台無しにされたロイドは、おじいちゃんのスーツ(1860年代の最先端のスーツ!)をおばあちゃんから与えられ、それを着て活躍する。おじいちゃんが活躍した(とされる)戦争は南北戦争である。
それはまるで、19世紀の精神を20世紀に甦らせようという試みのように見える。ライバルとの殴り合いのシーンは無骨であり、後のジョン・ウェインの西部劇の殴り合いのような趣を見せる。そこには、策略も何もない。ただ、自分は出来るという気持ちがあれば、何でも出来るという信念を20世紀に甦らせようとしているかのようだ。
この映画を見ていて「バック・トゥ・ザ・フューチャー(BTTF)」を思い出した。それは、ライバル役の男性が「BTTF」のビフに似ているからということもあるが、それよりも何よりも弱気な主人公が年長者の助けを借りて頑張るという姿が似ているからだ。そして、どちらの作品も古き良き時代を懐かしんでいるかのような雰囲気を持っている。
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