映画評「給料日」

 製作国アメリカ 原題「PAY DAY」
 チャールズ・チャップリン・プロダクションズ製作 アソシエイテッド・ファーストナショナル・ピクチャーズ配給
 監督・製作・脚本・出演チャールズ・チャップリン 出演フィリス・アレン、マック・スウェイン、エドナ・パーヴィアンス

 チャールズ・チャップリンがファースト・ナショナル社時代に製作した短編。チャップリン最後の短編と言われている(翌年製作される「偽牧師」(1923)は59分あるため、中篇と言える)。

 建設現場で働くチャーリーはドタバタを繰り広げながら仕事を終え、給料をもらう。恐妻に金を渡した後、少しだけちょろまかすことに成功したチャーリーは、飲みにでかける。酔っ払ったチャーリーは、満員電車に悪戦苦闘したりして、ようやく明け方に家について眠ろうとするが、すでに起床時間。恐妻にどやされながら、また働きに出かける。

 「犬の生活」(1918)、「担え銃」(1918)、「偽牧師」の3作が、後年に「チャップリン・レビュー」として3本セットで再公開されて、ビデオやDVDも3本がセットで発売されていることや、社会的なメッセージを読み取りやすいことももあり知名度が高い。「給料日」は「サニー・サイド」(1919)などと並んで、チャップリンの作品の中では比較的知名度の低い作品である。だが、おもしろさは他に引けを取らない。

 「給料日」でもっとも有名でもっとも楽しいのは、地上から投げられたレンガのブロックを、チャーリーが華麗に受け取るシーンだ。このシーンはチャーリーが上から落としているのを逆回しで撮影されている。そのために、華麗に受け取っているように見える。しかし、計算されたチャップリンの動きによって、実際にチャップリンが受け取っているといっても信じてしまいそうな自然さを保持している。チャップリンが他の作品で数々の不可能とも言える「芸」を見せてくれているというのも、このシーンを信じてしまえる理由の1つと言えるだろう。この作品の前から逆回しは使われていた(リュミエール作品の中にも、壁を壊す様子を逆回しで上映した作品があるくらいだ)が、これほど効果的に使われたのは初めてではないかと思われる。

 その他にも数々のギャグ(遅刻してきたチャーリーが優雅にやってきて現場監督に一輪の花を渡す。穴を掘るチャップリンがあまりにも少量の土しか掘り出さないなど)がある「給料日」だが、注目すべきギャグが2つある。1つはエレベーターを使ったギャグ、もう1つは排水溝のステッキをつくギャグだ。

 エレベーターを使ったギャグは、エレベーターの上に置かれた樽に座っていたチャーリーが物を取るために立ち上がるとエレベーターは下に移動し、チャーリーがそれに気づかずに樽に座ろうとするとギリギリのタイミングでエレベーターが上がってきて座ることができるというもの。排水溝のギャグは、酔っ払ったチャーリーが格子になっている排水溝のフタの部分にステッキを付いて寄りかかるというもので、格子の部分に偶然ステッキをつくことで寄りかかることに成功していたチャーリーだったが、最後には穴の部分についてしまい転んでしまうもの。

 2つとも、ギャグとしてもおもしろいのだが、同時にハラハラする点が共通している。チャーリーが気づいていないが危険が近づいているというギャグは、「モダンタイムス」(1936)のローラー・スケートのシーンや、「街の灯」(1931)のチャーリーが裸のマネキンを眺めるシーンに応用されていく。観客が先に危険を知ることでハラハラ感やおかしさを生み出す手法は、この後の映画の常套手段の1つとなる。

 「給料日」は、確かにチャップリンフィルモグラフィーの中でとても重要な作品とはいえないかもしれない。チャップリンが仮に「給料日」の段階でとどまって、おもしろい2巻物を生み出し続けていたら、現在のような世界的なそして永久的な知名度は得られなかったかもしれない。だが、だからといって「給料日」のような楽しい作品を忘れては、あまりにももったいない。

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