映画評「ビッグ・パレード」

※ネタバレが含まれている場合があります

[製作国]アメリカ [原題]THE BIG PARADE [製作・配給]メトロ=ゴールドウィン・メイヤー(MGM)

[監督]キング・ヴィダー [脚本]ハリー・ベーン [撮影]ジョン・アーノルド [編集]ヒュー・ウィン [衣装]エセル・P・チャフィン [美術]ジェームズ・バセヴィ、セドリック・ギボンズ

[出演]ジョン・ギルバート、ルネ・アドレー、ホバート・ボズワース、クレア・マクドウェル、クレア・アダムス、ロバート・オーバー、トム・オブライエン、カール・デイン

 金持ちの息子のジミーは、第一次大戦勃発の報を聞いて軍隊に志願する。フランスへ送られたジミーは、そこでフランス人女性のメリザンドと恋に落ちる。だが、出撃の命令が下り、ジミーとメリザンドと別れ離れになってしまう。

 最も多くの売上を上げたサイレント・フィルムとも言われる作品であり、主演のジョン・ギルバートはこの作品を機に、一気にスターの階段を上っていく。

 これだけ戦争を真っ向に扱った作品は、当時としては珍しかった。内容は、軍隊仲間との愉快な日々を描いたコメディ、フランス人女性のメリザンドとのロマンス、そして戦闘シーンの3つに分けられる。それぞれ、後に作られる戦争映画に影響を与えていると思われるが、個々の部分よりも全体の構成の方が注目に値する。それは、戦争を軽く見ていた若者が戦地へ赴いて、戦争観ひいては人生観を変えるという構成のことだ。

 この構成が非常に大きな効果を持つことは、オリバー・ストーンベトナム戦争を同じような構成で扱った「7月4日に生まれて」(1989)などでも証明されている。また、「変わる」ということは、シナリオ作劇上においても効果があるということは、様々な映画たちが証明してくれている。

 「ビッグ・パレード」が、戦争の変化で描き出すものは、戦争がもたらす悲劇だ。初の本格的な反戦映画とも言われるこの作品だが、そのトーンは弱い。「戦争反対」を前面に押し出した作品ではない。だが、押し出していない分、静かに伝わるものがある。

 ジミーの軍隊仲間であるスリムは、敵の陣地への潜入を行う。潜入は成功して、敵兵を殺害したスリムだが、自陣に戻ってくる途中に、自軍の兵士によって勘違いで撃ち殺されてしまう。この後、ジミーは戦争がどれほど悲惨なものかを絶叫するというシーンがあるのだが、その絶叫シーンよりもスリムが味方によって殺されるという点の方が、見ていて戦争の辛さを感じた。

 この静かな、押し出さない主張は、演出面でも見られる。淀川長治はヴィダーを「叙情派」と称しているが、その名にふさわしい丁寧な演出を見せる。それは、戦地へと向かうトラックに乗ったジミーと追いすがるメリザンドによる有名なシーンよりも、もっと細部に見られるものの方が、個人的には魅力を感じた。

 細部とはどこかというと、例えば故郷の家に戻ってきた愛息のジミーを見た母親の姿の演出だ。左足を失った息子を見た母親の顔に、カメラは勢いよく近づいていく。そして、母親の顔に二重写しで、小さかった頃のジミーの様子が映し出される。このとき、映画の主役はまさに母親になっている。短い時間で、映画は一気に母親のドラマにもなっている。母親の心情は痛いほど伝わってくる。

 もう1つの細部の例を挙げよう。戦争が終わり、1度アメリカへと戻ったジミーだが、そこには居場所がないと感じ、フランスのメリザンドの元へと向かう。畑で働いているメリザンドは、1人の男性が近づいて来るのに気づく。義足のためにぎこちなくしか歩けないジミー。出来る限り早くメリザンドの元にたどり着こうと、懸命に、それでいて粋に見せようとしながら歩くジミー。このシーンは、私の胸を熱くさせるものがあった。

 上に挙げた2つの演出とも、そのどちらも戦争を直接的に批判しているわけではない。だが、ヴィダーの演出は登場人物の心境が痛いほど伝わってくる。そして、伝わってくる心境の辛い部分は、戦争がなければ避けられるものだ。

 ジミーがフランスのメリザンドの元へと向かうという展開は、アメリカ批判と捉えることもできるかもしれない。だが、それ以上に、戦争という強烈な苦しみは、同じ経験していないものには分からないということを、そんな非常に哀しいことを訴えているように感じられる。

 「ビッグ・パレード」は、戦争を真っ向から捉えた作品である。そして、何かを大声で主張するのではなく、それぞれの登場人物たちが巡る運命と運命の軋みのようなものにしっかりと目を据え、そこからにじみ出る小さなドラマを集めた作品だ。有名なジミーとメリザンドの別れのシーンにだけ目を向けてはいけない。それは、小さなドラマの1つであり、「ビッグ・パレード」の魅力は、それらが1つに集まっているところにあるからだ。

ビッグ・パレード【淀川長治解説映像付き】 [DVD]

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