映画評「女優ナナ」

※ネタバレが含まれている場合があります

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[製作国]フランス  [原題]NANA  [製作]Les Films Jean Renoir  [配給]Les Établissements Braunberger-Richebé

[監督・製作・編集]ジャン・ルノワール  [原作]エミール・ゾラ  [脚本]ピエール・レトランゲェ  [撮影]ジャン・バクレー、エドモンド・カウイン  [美術・衣装]クロード・オータン=ララ

[出演]カトリーヌ・エスラン、ピエール・フィリップ、ジャクリーヌ・フォルザーヌ、ヴェルナー・クラウス、ジャン・アンジェロ、レイモンド・ゲラン=カトラン、クロード・オータン=ララ、ピエール・シャンパーニュ

 女優のナナは、その魅力で関わる男性たちを虜にしていくが、女優としての才能には欠ける。ミュファ伯爵の援護もあり、高級娼婦になったナナは、様々な男性たちを虜にしていく。

 監督のジャン・ルノワールは、エーリッヒ・フォン・シュトロハイム監督の「愚なる妻」(1922)を見て、同様の映画を作ろうと考えた。その結果として生まれたのが、「女優ナナ」と言われている。だが、「女優ナナ」の印象は「愚なる妻」のようなリアリズムとは異なる。むしろ、セダ・バラ主演の「愚者ありき」(1915)のような、シュールさが漂うほどのファム・ファタル映画であるような印象を受けた。

 ナナを演じるカトリーヌの演技は、リアリズムとは程遠い。身振り手振りは大げさだし、薄目が特徴的な表情はシュールですらある。邪推だが、当時妻だったカトリーヌをスターにしようとして、「カトリーヌ」(1924)を作ったと言われるルノワールにとって、「女優ナナ」の主人公を別の女優に演じさせることは選択肢に入れようがなかったのだろう(ちなみに、この映画の後2人は別れている)

 ゾラによる原作は、執筆当時のフランス社会を反映した作品であったという。映画版には、そうした要素はあまり感じられない。当時、社会的な地位を得ていたという高級娼婦の存在に一端が垣間見えるものの、全体的な印象は、カトリーヌを中心とする小さな世界で繰り広げられる物語である。

 では、「女優ナナ」はつまらない作品かと問われると、決してそうではない。ジャン・ルノワールの演出は、移動撮影を効果的に使用し、空間的な広がりを感じさせる。特にオープニングでは、舞台の梯子を昇るナナの姿を移動撮影で捉え、その活き活きとした躍動感は、映画への期待を喚起させるに十分だ。「カリガリ博士」(1920)で有名なヴェルナー・クラウスが、エキセントリックなナナに翻弄される伯爵役を、重厚に演じてみせる。

 ファム・ファタル映画として、「女優ナナ」は楽しめる作品となっている。それは、エミール・ゾラの原作にもないものかもしれないし、ルノワールが映画製作のきっかけになったという「愚なる妻」にもないものだ。だが、妻であるカトリーヌ・ヘスリングを得ることができたことや、映画的な流麗な移動撮影などを考えると、ルノワールだからこそ作り得たファム・ファタル映画として、この映画を評価したい。

 ちなみに、この映画はヒットせず、ルノワールは父である画家のオーギュスト・ルノワールの絵画を売るはめになったという。

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