「あれ」の生みの親エリノア・グリン

 「あれ」(1927)の原作者は、エリノア・グリンである。グリンは恋愛小説家でもあり、当時ハリウッドに原作・原案・脚本を提供していた。またグリンは、ハリウッドのスターたちに所作の指導もしたと言われる。たとえば、ルドルフ・ヴァレンティノには、手の甲ではなく手の平にキスをする方法を伝授したという。

 そんなグリンが、「コスモポリタン」誌に発表した短編が「あれ」である。「あれ」とは英語の「IT」のことだが、グリンは男女を共に引き付け合う不思議な磁力と定義した。そして、「あれ」は流行語となった。

 「あれ」は当然のように、パラマウントによって映画化された。原作では、男女に「あれ」があるという内容だったが、映画化に際しては女性にあるものとし、内容もライト・コメディに変更となった。

 主役を演じたクララ・ボウは、グリン自身が推薦した。ボウもグリンも赤毛で、容貌もグリンに似ていたためとも言われる。また、グリンは自作の映画化「三週間」(1924、MGM)でも、自分に似た容姿の女優を望んだという。ちなみに、「あれ」について語る役としてグリンも出演している。

 当時赤毛はみっともないとされていたが、1920年代にはセクシーとみなされたという。一昔前のヴァンプは黒髪がセクシーとみなされ、1930年代はプラチナ・ブロンドがセクシーとみなされることになる。

 「あれ」は大ヒットしたが、ヒットした最大の要因は「愚者ありき」と同様、映画公開に先行して行われた宣伝と、「あれ」という言葉にあると言われる。


あれ [VHS]

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