「あれ」のクララ・ボウと複雑な個性を発揮し始めた女優たち
アカデミー賞を受賞した「つばさ」(1927)に出演したクララ・ボウは、「あれ」(1927)で人気を高めた。「あれ」は、パラマウント製作で、公開にあたって大々的な宣伝が行われた作品である。「あれ(イット)」とはセックス・アピールを意味する言葉で、流行語になった。また、ボウを真似た細い眉や、目を強調した大胆なメークが大流行した。
ボウは1920年代のアメリカを代表するセックス・シンボルとなるが、この頃になると1910年代と比べてスターたちの個性は複雑になってきていた。
ポーラ・ネグリ、アラ・ナジモヴァ、ドロレス・デル・リオ、グレタ・ガルボといった外国から来た女優たちは、エキゾチズムは発散させた。その一方で、アメリカ出身の女優も、ボウのようなセックス・アピールや、ルイーズ・ブルックスのシャープな断髪など様々な個性を発揮した。
この現象について、出口丈人は「映画映像史」の中で、次のように書いている。
「ピックフォードやリリアン・ギッシュのような広い意味で可愛いタイプの女優はデビュー作一本で多くのファンを獲得する。しかしより複雑な魅力は、周囲の理解が深まり支持者が増えるのに時間がかかる。何本もの主演作に接したり、他のさまざまな俳優を見るうちにしだいに理解が深まっていくものである。男優でも女優でも事情は変わらない。時代が進むにつれてスターのキャラクターが複雑になってきたのはこのような観客のまなざしの結果である。20年以上の映画体験の積み重ねの末に、観客の視線は洗練されていったのである」
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