「帝国ホテル」 モーリッツ・スティルレルの挫折

 F・W・ムルナウがドイツからやって来る以前に、活躍を期待されてハリウッドへ招かれた監督に、スウェーデンのモーリッツ・スティルレルがいる。

 スティルレルは、思うような映画をハリウッドで作れないでいた。ドイツからハリウッドへやってきていたエーリッヒ・ポマーが製作を担当して、スティルレルが監督した「帝国ホテル」(1927)は、オーストリアの田舎のホテルを舞台に、女中ポーラ・ネグリが若い士官ジェームズ・ホールと協力して、ロシア軍に一泡ふかすという内容の作品だ。ポーラ・ネグリの演技から機知や心の機微を引き出すことに成功したが、ネグリにはなじまなかったと言われる。

 スティルレルはこの後、ポーラ・ネグリ主演「罪に立つ女」(1927)を監督する。その後の「罪の町」(1928)では、ヤニングスの演技を制御するのに疲れて、途中でスタンバーグと交代する。スティルレルは結局、実力を発揮できないまま、この年スウェーデンへと帰国していく。