トッド・ブラウニングとロン・チェイニーのコンビ作 「見知れぬ人」「London After Midnight」

 トッド・ブラウニングとロン・チェイニーは、1925年からコンビ作を連発していたが、この年は「見知れぬ人」「London After Midnight」(1927)が作られている。

 「知られぬ人」は、腕があるのにないふりをしている足ナイフ投げ芸人が、恋愛のもつれから本当に腕を切断するという物語である。巧みな足技を見ることが出来るが、チェイニーではなく代役が演じた。主人公は指が6本あるために、腕がないふりをしている。腕があること自体を知られてはならないし、知られると指が6本あることも知られてしまうという二重の障害という、ブラウニングらしい設定になっている。

 「London After Midnight」は、2人のコンビ作の中で最大のヒットを記録した作品だが、フィルムは火事で消失してしまったという。吸血鬼ものだが、すべては催眠術とトリックによるものだったとされており、「ハリウッドはこのときまだ超自然的な物語に対するためらいがあった」(柳下毅一郎「興行師たちの映画史」)という当時の状況を反映している。この作品を見て、吸血鬼メイクのチェイニーの幻影に襲われて殺人を犯したと主張する人物も現れたが、精神異常は認められずに死刑になったという。

 チェイニーは主演していないが、かつてブラウニングが活動していたカーニバルの世界を描いた作品「見世物」(1927)も作られている。見世物芝居の呼び込み役コック・ロビンを主人公としたメロドラマで、芝居小屋の中では、鏡を使ったトリックで首を切ったりする出し物が見られる。描かれるトリックの種類が限られており、仕掛けまでみせていることから、ブラウニング自身がかつて親しんでいたものであると思われる。主人公のロビンは女性に流し目を送り、性的な軽口を飛ばし、女性をモノ扱いするというキャラクターだった。ブラウニングは、芸人時代から身体損傷と女性へのサディズムに興味を持っていたと思われると柳下毅一郎は「興行師たちの映画史」の中で指摘している。

 「見世物」の主演は、当時のハリウッドの代表的二枚目スターだったジョン・ギルバートだったが、イメージから離れていたため不評だったという。


興行師たちの映画史 エクスプロイテーション・フィルム全史

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