ドイツ フリッツ・ラングの大作「メトロポリス」

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 この年のドイツ映画の代表作は、エーリッヒ・ポマー製作、テア・フォン・ハルボウ脚本、フリッツ・ラング監督の「メトロポリス」(1927)だろう。

 700万マルクにのぼる製作費で、ドイツ映画始まって以来の大作だった。撮影は1925年5月から開始され、1927年になってようやく完成した。群衆シーンのエキストラ約5,000人、衣装費20万マルク、セット・照明費40万マルクと言われた。だが、製作費については、ウーファが財政困難である理由を「メトロポリス」に押し付けようとして、実際よりも多く見積もったとも言われる。

 ミニチュアとセットと実景を合成したオイゲン・シュフタンの特殊技術(シュフタン・プロセスと言われた)は素晴らしい効果を挙げており、オットー・フンテ以下のデザイナーは最高のセット技術を披露している。

 技術文明の発達により支配者と被支配者が断絶し、科学が人類に災害をもたらすという内容で、労働者と資本家の妥協は、支配者のためのハッピー・エンドと批判された。このラストはウーファ社の首脳陣が押し付けたものとも言われる。また、「セットに捉われすぎて、登場する人間は建築物と機械の付属物として様式化されてしまっている」「技術と作品の内容が結びつかず、人間不在・人間性への軽蔑に」といった批判(岡田晋「ドイツ映画史」)もある。

 ラストについては、ラング自身も嫌っていたという。1959年にラングは、次のように語ったという。「私は『メトロポリス』が好きではない。それは偽りだ。結末が嘘だ。この映画を作っている時から、私は受け入れてはいなかった」

 ハルボウが書いたもともとのラストは、未来都市が崩壊し、ゴシック風の教会から幽霊や悪鬼などが飛び出してくるというものだったらしい。彼らは、労働者と資本家の問題ではなく、現代の科学と中世のオカルティズムとの戦いを映像化しようとしていたとも言われる。しかし、ラングがこの異様なイメージに怖気づいてしまい、映像化されることはなかったという。そして、ラングはそのことを後に後悔していたとも言われる。

 「メトロポリス」の特徴としては、様々なジャンルのハイブリッドである点が挙げられる。多くのエキストラと巨大なセットによる大スケールのSF映画でありながら、巨大工場の事故シーンや地下都市大洪水シーンには、パニック映画の側面もある。さらに、一握りの資本家に労働者たちが奴隷のように働かされているという設定は、社会全体が組織化される恐怖を描いており、社会派映画の側面も持っている。

 フリッツ・ラングが世界的名声を得た原動力である、比類なき構想力と造形力が発揮された作品だが、多額の製作費に比べて、興行成績はよくなく、ウーファの経営悪化の一因となった。


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