映画評「建国史 尊王攘夷」

※ネタバレが含まれている場合があります

[製作国]日本  [製作]日活太秦撮影所

[監督・原作・脚色]池田富保  [総指揮]池永浩久  [撮影]松村清太郎  [衣裳]水谷美夫

[出演]大河内伝次郎、山本嘉一、尾上多見太郎、谷崎十郎、松平鶴之助、岡田時彦、桂武男、葛木香一、新妻四郎、久米譲

 当時の日活で、時代劇監督として様々な作品を監督していた池田富保が、「建国史」と銘打って製作した大作だ。井伊直弼を主人公に、ペリー来航から桜田門外の変までを描いた作品である。

 大スターの大河内伝次郎井伊直弼役とし、現在ではどちらかというと幕末の悪役としてのイメージが強い井伊を、憂国の人物と描いている。桜田門外の変で「国賊!」と罵られた井伊が、「考え方の違いはあっても、国を思う気持ちは同じなのだから国賊などと呼ぶな」と言うセリフに、原作も担当した池田の考え方が如実に現れている。

 さらに池田は、桜田門外のシーンの後に、現在の横浜の映像をつなげてみせる。思想弾圧が当時の日本社会にも存在していたことから考えると、池田は敢えて伊井を主人公にした映画を作り、思想の違いよりも思いの共通をアピールすることで、当時の日本社会への提言も視野に入れていたのかもしれない。

 主人公の井伊直弼を演じる大河内がいい。懐が深く、それでいて必死で、時に冷たいほど決然として、時にあたたかい。大河内の最大の見せ場は、次々と井伊に不利な情報が入り動揺しながらも、集めた幕臣たちに開国の必要性を訴える演説をするシーンだろう。リーダーとしての伊井の強さと、苦悩の両者を感じさせてくれる。

 伊井の演説のシーンが最大の見せ場であることからも分かるように、映画としては地味な作品だ。当時の時代劇というと、チャンバラばかりだと思っている人は、驚くかもしれない。

 字幕も多いし、動きも少ないことから、映画技術的には未熟と言われても仕方がない。幕末についての事前知識も必要だろう。それでも、監督・原作・脚色を務めた池田の思いが伝わってくる熱い作品であること、そして熱い思いが結実した作品であることは間違いない。


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