残像 ジョゼフ・プラトー

 機械の話の前に、なぜ人は動画を見ることができるのかについて知らなければならないだろう。それは、残像現象と呼ばれる現象によるものだ。物体を見ていると、目に投影されたイメージはその物体がなくなってもしばらくは残っているという現象だ。現代では脳の作用とされているこの現象によって人は連続した静止画を動画として見る(感じる)事ができるのだ。

 この残像現象を調べていた人にジョゼフ・プラトーという人物がいる。1829年に真夏の太陽を25秒間見つめた。当然のことに、盲目状態に陥り、しばらく太陽の残像に苦しめられ、何日か後に太陽の残像は去った。という自らを被験者とした人体実験を行い、網膜の抵抗力の限界を知ろうとしたのだ。何よりもすごいのは、プラトーはこういった実験のために1842年に失明してしまったのだ。すさまじい科学者魂である。太陽を直接見てはいけませんということを小学生の時の理科に教わるようになったのは、この人の影響があるのかもしれない。
 そして、プラトーは映画原理の根本法則を生み出した人という称号を与えられている。しかし、正直に言って、プラトーが失明するまでがんばらなくとも、機械としての映画は完成していたように思える。残像現象自体は一般的に知られていたし、人間が1秒間にどれくらいのフィルムを見れば映像として認知するのかは、実際にやってみればわかったことだからだ(当然、映画の開発者たちはそういった実験をやって1秒間のコマ数を決めていった)。
 プラトーは後に映画が誕生することがわかっていたわけではないし、その科学者魂はいささかも汚れないのだが、だが、何だか悲しい。