映画評「月世界旅行」(2)

 カメラが持っている機能を必要以上といってもいいほど駆使しているこの作品には、メリエスが楽しんで撮影している様子が目に浮かぶようだ。カメラというおもちゃを与えられたイマジネーション溢れる人物が撮った作品という印象を受ける。

 カメラの機能を単純に使っただけではなく、この作品にはメリエス自身によってデザインされたセットがある。その非現実的で夢幻的なセットが、カメラの機能を使って生み出された非現実的なトリックとあいまって、この作品を後世まで語り継ぐに足る作品にしていると思う。

 今、私から見た感じでは、カメラのトリックよりも、そのキッチュな雰囲気の方が受け入れられるのではないかと思った。サイレント映画初期のドタバタとした大げさな登場人物たちの演技、有名な月にロケットが突っ込むシーン、月に住む生物の造型などなどが醸し出す雰囲気は、映画初期であることを無視しても魅力を保持している。

 メリエスという人物が、映画史的に果たした役割を抜きにしても、メリエスの世界が光り輝いていること、唯一無二の「ジョルジュ・メリエスの世界」が存在する事をこの映画は証明している。