映画評「月世界旅行」(1)

 1902年・フランス
 監督・脚本・出演 ジョルジュ・メリエス

 歴史的に価値のある作品だが、誤解されて受け入れられている部分も多い。たとえば、この作品は世界初の物語映画ではない。物語映画は、メリエス自身もこの作品より前に製作している。また、メリエスは確かに物語映画を作ったパイオニアの「1人」ではあるが、最初であるかはわからない。ゴーモン社の女性監督アリス・ギイが最初だという説もあるが、今のように情報の伝達が早かった時代ではないことや、多くのフィルムが残っていないことなどから、最初に物語映画を作った人物が誰かは、はっきりとはわからないといえるだろう。

 この作品は、他のメリエスの作品と同じように、舞台を撮影するように撮られている。カメラは固定され、動くことはない。メリエス自身がデザインした舞台上のセットは見事で、月に行ってからも勿論だが、地球のセットもすばらしい。二重露出がところどころで使われ、夢幻的な雰囲気を醸し出している。月に住む生物を、杖のようなもので殴ってやっつけるシーンでは、生物が消えるトリック(カメラを1度止めて、生物をいなくしてから再び撮影するトリック)も使われており、カメラの持つ機能の一部を有効活用している。

 月にロケットが突っ込む有名なシーンでは対象物とカメラを近づけることで拡大させてみせ、ロケットが突っ込む瞬間にもカメラを1度止めるトリックを使っている。