ジョルジュ・メリエス作品集(2)


「常識はずれの新たな戦い」(1900)

 2人の女性によるレスリングは、女性から男性になったり、相手の体がバラバラになったり、ペチャンコになったり、爆発したりという常識はずれの戦いとなる。

 入れ替えのトリックを駆使して、人を人形と入れ替えて、バラバラになったり、ペチャンコになったり、爆発したりする。人形だということはすぐに分かるのだが、速いテンポがそんなことを気にさせるよりも、楽しく感じさせてくれる。

 バラバラになってもくっつければまた元に戻るというシチュエーションは、かなりブラックでシュールで過激であり(モンティ・パイソン的とも言っていい)、このあたりの面白さもまた、人形だとすぐ分かるという点を補って余りある。

 メリエスの初期の頃の短編は勢いがあり、短い時間にエンタテインメント性が凝縮された濃厚な楽しさがある。この作品はそれを感じさせてくれる。


「一人オーケストラ」(1900)
 メリエス演じる人物が分身していき、7人のオーケストラを編成し、演奏を行う。

 1人でオーケストラの様々なパートを演じていることから、映画製作の面でのメリエスの製作方法を投影しているとも言え、その点で過剰に評価されているようにも思われる作品。メリエス自身が気に入っていたという点が、過剰評価に拍車をかけている。

 といっても、決してつまらない作品ではない。ただ、二重露出、入れ替えなどの様々なトリックが駆使されてはいるものの、それほど工夫の凝らされた作品とは思えない。テンポもよいとは言えず、楽しい作品だが、この作品よりも楽しいメリエス作品は多々ある。


「ADDITION AND SUBSTRACTION(TOM WHISKY OU L’ILLUSIONNISTE TOQUE)」

 男が椅子に座ろうとすると、そこに女性が次々と現れる。

 メリエスお得意のストップ・モーションを使ったトリックが使われた作品。3人の女性をまとめると、1人の太った女性が現れたり、頭を叩くと小さい子供になったりといった工夫がされている。


「THE COCK’S REVENGE(LA VENGEANCE DU GATE-SOUCE)」

 雇い主に首を落とされたコックが、甦って雇い主の首を落とす。

 と書くと残酷なように聞こえるが、コメディと言っていいだろう。だが、ブラックなコメディだ。二重露出に、ストップ・モーションを使った入れ替えなどを駆使して、ブラックな世界をメリエスは作り出している。


「JOAN OF ARC(JEANNE D’ARC)」

 ジャンヌ・ダルクフランス軍を率いるようになってから、火刑に処されるまでを描く。

 10分程度のこの作品は、当時の基準では大作だった。メリエスは1899年に製作したドレフュス事件を描いた作品で15分弱の作品を作っているが、この作品はドレフュス事件にまつわる1分程度のバラバラのシーンを合計した時間であり、この作品のように一連の物語とはなっていない。

 この作品は、一連の物語となっている点で、メリエスが映像で物語を語った作品と言えるが、当時のフランス人が持っていたジャンヌ・ダルクの知識に頼っている部分も少なくない。ジャンヌがどこに攻め込み、誰に捕まり、なぜ火刑になったかは、映画を見ただけではわからない。

 演出面では、舞台を撮影するスタイルは変わらず、屋外の砦を攻めるシーンもセットで撮られている。途中で街の中を大人数の軍隊が行進していくシーンがあるが、同じ役者が演じる兵隊たちを何度も登場させて大行列に見せているという。また、ジャンヌの生家などは現在でも残っている実際に生家と似ているなど、歴史的検証をしっかりと行って撮影されたようである。

 この作品は、メリエスが映画で物語を語り始めた初期の作品だが、「月世界旅行」(1902)が何の予備知識もなく見ても理解できるのとは異なり、人々の知識に頼っている。メリエスの物語映画の道程は非常に面白い。


「THE RAJAH’S DREAM(LE REVE DU RADJAH OU LA FORET ENCHANTEE)」

 インドの王様が眠ろうとすると、いきなり屋外となり、木が人になって動き出したりする。

 後半で大勢の女性たちが登場する点が新しいが、それ以外はこれまでにも作られた内容を、インドの王様という見た目で変えただけと言っていいだろう。


「THE WIZARD, THE PRINCE AND THE GOOD FAIRY(LE SORCIER, LE PRINCE ET LE BON GENIE)」

 王子が魔術師の元にやって来て、魔術師に魔法を掛けられるが、よい妖精たちによって助けられる。

 それまで1分程度で、映像トリックをメインにした作品を作ってきたメリエスは、この頃になると、もう少し長い時間を使って、ちょっとだけストーリーを絡めた作品を作るようになっていた。この作品もそうした作品の1つ。

 テクニック的には従来通りで、見た目を変えているだけのため、正直言って間延びしてしまっているように感じられる。


「THE MAGIC BOOK(LE LIVRE MAGIQUE)」

 マジシャンが、巨大な本に書かれた人々を次々と呼び出す。

 絵が動き出すというパターンもメリエス作品に多くある。この作品は、単純に動き出すだけではなく、本から飛び出した男たちが、同じく本から飛び出した女性にちょっかいを出すという一工夫がある。

 この頃のメリエスの作品は、初期のトリックに一工夫を加えた作品が多く、少し時間が長くなっている。この一工夫が面白しければより楽しめるが、面白く感じられないと長い分だけだらけてしまう。


「UP-TO-DATE SPIRITUALISM(SPIRITISME ABRACADABRANT)」

 1人の男性が、帽子とコートを脱ごうとするが、いくら脱いでもいつの間にか元に戻ってしまう。

 ストップ・モーションを使ったトリックなのだが、アイデアが面白い。舞台の出し物っぽく、メリエスの舞台のエンターテイナー性と映画でなければ実現できない面白さが見事に融合している。


「THE TRIPLE CONJURER AND THE LIVING HEAD(L’ILLUSIONNISTE DOUBLE ET LA TETE VIVANTE)

 1人のマジシャンが2人に分裂し、マネキンの女性の首に命を与える。

 ストップ・モーションと二重露出を使ったトリック映画で、同じ人物が2人になったり、首に命を与えたりという、メリエス作品で繰り返し登場するパターンが使われている。最後には、メリエスが好んで演じた悪魔も登場し、メリエスが好きなパターンが込められた作品であると言える。だが、内容的には、これまでの焼き直しという感じもする。


「THE CHRISTMAS DREAM(REVE DE NOEL)」

 クリスマスの夜、子供たちや人々が様々な方法でお祝いをしている。

 映像的なトリックはほとんどなく、舞台を撮影したものをつないでいるという印象。いくつかの舞台をオーバーラップでつなぐことは、舞台にはできない表現なのだが、どうも消化不要なまま終わってしまった。


「A FANTASTICAL MEAL(LE REPAS FANTASTIQUE)」

 食事をしようとすると、テーブルの足が伸びたり、急にテーブルが消えたりする。

 ストップ・モーションと二重露出を使ったトリックと、人形を糸で吊るしたりといった舞台的なトリックが併用されている。トリックが映像的であれ、舞台的であれ、シュールな世界を描き出しているという点で、目的は一致しており、楽しませてくれる。


「GOING TO BED UNDER DIFFICULTIES(LE DESHABILLAGE IMPOSSIBLE)」

 1人の男性が、帽子とコートを脱ごうとするが、いくら脱いでもいつの間にか元に戻ってしまう。

 この頃になると、「この作品、前にも見たかも」と思う作品が出てくる。この作品もアイデアは前に作られた作品と同じだ。メリエスは舞台を撮影するように撮っているため、パッと見の印象も同じになりやすい。しかし、服を脱いだり、帽子を投げつけたりといったアクションの途中で、ストップ・モーションを使って再び服を着せる瞬間は見事に編集されており、メリエスの腕前が上がっていることを証明しているとも言える。


「EIGHT GIRLS IN A BARREL(LE TONNEAU DES DANAIDES)」

 8人の女性たちが、1つの樽の中に次々に入れられるが、全員入ったはずなのに、樽の中は空っぽ。

 ストップ・モーションを使ったトリック。ギリシア風の衣装を着て演じられて、アクセントをつけようとしている
が、それほどの効果は上がっていない。


「THE DOCTOR AND THE MONKEY (LE SAVANT ET LE CHIMPANZE)」

 檻に入れられた猿が逃げ出し、部屋の中を暴れまわる。

 映像トリックは使われておらず、舞台の出し物を撮影したという印象の作品。


「HOW HE MISSED HIS TRAIN(LE REVEIL D’UN MONSIEUR PRESSE)」

 服を着ようとした男が、ズボンを履こうとすると、ジャケットになったりと物が七変化して戸惑う。

 服をいくら脱いでも、元に戻ってしまうというメリエスの作品があるが、これはそれを服を着るときに変えて作っている。物が変わる面白さに加えて、帽子がブーツになって頭の上に乗っかったりといった見た目の面白さも加わった作品である。



私が見たメリエスの映画が見られるDVD・ビデオ
「THE MOVIE BEGIN」(アメリカで発売されているDVD)
「Georges Melies: First Wizard of Cinema (1896-1913)」(アメリカで発売されているDVD)
「フランス映画の誕生」(ジュネス企画
本「死ぬまでに見たい映画1001本」の付録
死ぬまでに観たい映画1001本