ジョルジュ・メリエス作品集(3)

「ゴム頭の男」(1901)

 ジョルジュ・メリエス演じる主人公が、首を取り出して(この首もまたメリエスなのだが)テーブルの上に置く。その首にフイゴで空気を送り込むと首がどんどん膨らんでいく。最後には、膨らみすぎた首が破裂してしまう。

 生きている首はメリエスの映画ではおなじみで、マスクと二重露出を使ったトリックとなっている。この作品では、さらに首がどんどん膨らんでいく様子を台車に乗ったメリエスがカメラに近づくことで表現するというトリックが使われている。遠近法を使用したトリックということだ。

 ちなみにこの作品のテンポは、他のメリエスによるトリック映画と比較すると緩やかだ。この作品が遅いのではなく、他のメリエスによるトリック映画が早いのだ。それは、「月世界旅行」(1902)もそうで、狂騒的なスピードの中、様々なトリックが使われた映像が目の前を通過していく。この作品のテンポが緩やかなのは、「首が膨らんでいく」という内容のためだろう。「徐々に大きくなる」というのが見所なのであって、ここはじっくりと溜めてみせるべきとメリエスは判断したのだろう。思えば、「月世界旅行」でも、月との距離が接近していることを月がだんだん大きく見えてくることで表現していたが、それまでの早いテンポではなく、ゆっくりと徐々に月が大きくなっていた。

 このテンポの違いに、メリエスの映画製作者としての腕の確かさを感じた。一瞬で事物が消えるようなトリックでは早いテンポが合い、徐々に事物が大きくなるようなトリックでは遅いテンポが合う。こう書くと当たり前のことのように思えるが、それをきちんと実践して観客を楽しませることができる人物がそれほど多くいるとは思えない。


私が見たメリエスの映画が見られるDVD・ビデオ
「THE MOVIE BEGIN」(アメリカで発売されているDVD)
「Georges Melies: First Wizard of Cinema (1896-1913)」(アメリカで発売されているDVD)
「フランス映画の誕生」(ジュネス企画
本「死ぬまでに見たい映画1001本」の付録
死ぬまでに観たい映画1001本