ジョルジュ・メリエス作品集(7)

「地獄の鍋」(1903)

 舞台は地獄。メリエスの作品には地獄を舞台にしたものが多い。女性を次々と鍋の中に放り込んで殺していく悪魔。3人の女性が鍋に放り込まれた後、鎌から3つのゴーストが現れ、悪魔を追い詰めていく。

 悪魔がゴーストに怯えるという設定のおもしろさはとりあえず置いておく。鍋に投げ込まれた女性たちは、フィルムを一旦ストップする方法で消えていく。炎やゴーストは二重露出だろう。ゴーストが薄く透けているように撮影されており、ゴーストっぽさを増すことに成功している。

 この作品の特徴の1つは、カラー作品ということ。1枚1枚のフィルムに直接彩色するという方法で、色合いは不自然なのだが。

 上映時間は2分程度。この作品もエンタテインメント性に富んでいる。


「THE MARVELLOUS WREATH(LA GUIRLANDE MERVEILLEUSE)」(1903)
 
 1人の男が花輪と使って、悪魔や美女を登場させたりする。

 1本のロープを輪にしてフラフープにしたりといった、舞台上のマジックでも行われるトリックを、映画で見せている点が特徴的だろう。そのために、細かく編集されているのが見ていてわかる。


「MISFORTUNE NEVER COMES ALONE(UN MALHEUR N’ARRIVE JAMAIS SEUL) 」(1903)
 
 居眠りをしている1人の歩哨が持っている銃を、ある男が放水ホースと取り替えたことから始まるドタバタ。

 映像トリックは使われていないが、タイミングといい、テンポといい、見事な作品。後半にいたるにつれて、カオスが増していき、登場人物も増えていくエスカレーションの魅力がある。


「THE MYSTERIOUS BOX(LA BOITE A MALICE) 」(1903)
 
 男が女性を小さな箱の中に入れて、箱を持って移動し、再び箱から女性が出てくる。

 マジックでよくある人物消失のトリックを、映画ならではの絶対に人が入れない大きさの箱で行ってみせる。二重露出を使って作られている。この頃のメリエスの作品は3分程度と初期の作品よりも少し長くなっている。本題の前にちょっとした映像トリックを見せてくれ、それが長くなった理由の1つだと思われる。見慣れた映像トリックを見せてくれるよりは、本題に入ってくれた方がよかったりもするが、メリエスが舞台の出し物のように、1つの世界で完成させようとしているかのようだ。


「THE ENCHANTED WELL(LE PUITS FANTASTIQUE) 」(1903)
 
 魔女を邪険にした男が、井戸から出てきた悪魔やモンスターなどによって苦しめられる。

 床から伸びる井戸のセットや、ぬいぐるみの蛇や着ぐるみの蛙(1匹の蛙は頭がずれてしまいそうなのをしきりに気にしている)といった作り物の魅力に、メリエス流の映像トリックを加えた作品で、他のメリエス作品とは異なる独特の魅力を放った作品である。


「THE INN WHERE NO MAN RESTS(L’AUBERGE DU BON REPOS) 」(1903)
 
 宿屋に泊まりに来た男が、動き出す肖像画や、暴れ出すベッドのせいなどで眠ることが出来ない。

 アイデアとしてはありがちで、メリエスの他の作品にも見られる。だが、この作品が面白いのは、部屋の中に肖像画や窓、大時計など、男の邪魔をするための要素がいたるところに散りばめられており、「次は何が邪魔をするのか?」という楽しさがあるところだ。

 後半は、多くの人が男を追いかけるドタバタの面白に加えて、窓からジャンプして逃げ出したりといったアクロバティックな楽しさもある。


「THE DRAWING LESSON(LA STATUE ANIMEE) 」(1903)
 
 1人の男が女性の彫像を出現させ、子供たちがその彫像を写生する。

 ストーリー仕立てになっているのが特徴的だが、トリックなどは他の作品の焼き直しである。


「THE WITCH’S REVENGE(LE SORCIER) 」(1903)

 魔術師が王の前で様々な魔術を披露するうちに、王を捕らえてしまう。

 ストーリー仕立てとなっているが、最大の見所は魔術師が椅子を回転させながら上に放り投げると、途中でクルクルと回転した男に変身するところだろう。メリエスの映像トリックの代名詞である、ストップ・モーションを使った映像トリックに磨きがかかっている。


「THE ORACLE OF DELPHI(L’ORACLE DE DELPHES) 」(1903)
 
 エジプトの王の宝物庫に忍び込んだ泥棒が、呪いによって頭をロバにされてしまう。

 この作品もちょっとしたストーリー仕立てになっている。トリックはこれまでの焼き直しだが、ストーリー仕立てにすることで新しく見せようという試みがされている。拝啓の書き割りや登場人物の格好など、雰囲気を出すことにも成功している。


「SPIRITUALISTIC PHOTOGRAPHER(LE PORTRAIT SPIRITE) 」(1903)
 
 写真家が女性を巨大な白い紙に焼き尽け、その後再び人間に戻す。

 これまでにも使われた映像トリックの焼き直しといって印象。


「THE MONSTER(LE MONSTRE) 」(1903)
 
 エジプトの魔術師が、骸骨を女性に変身させる。

 ナレーションによると、男性が死んだ妻に最後のキスをするために、魔術師に頼んで甦らせてもらったという設定らしいが、映画だけを観ているとそれは分からない。

 トリック自体は焼き直しだが、スフィンクスやピラミッドなどのエジプトの様子を描いた書き割りの魅力が映画を支えている。


「THE KINGDOM OF FAIRIES(LE ROYAUME DES FEES) 」(1903)
 
 王妃が魔女によって連れ去られてしまい、王子が追う。途中で船が難破してしまうが、海底に住む妖精によって助けられ、王子は無事王女を助け出す。

 15分強という、当時としては長尺の超大作である。「月世界旅行」(1902)と異なり、映像トリックはあまり使われていない。その代わりに、舞台の夢幻劇の楽しさを味わわせてくれる作品となっている。舞台では簡単にできない舞台転換を、編集によって行うことで、映画の力を使った夢幻劇ということもできるだろう。

 私が見たバージョンでは音声による説明がついていたが、ストーリーが単純なため、説明がなくても理解できただろうと思われる。そのため、メリエスが作り出した背景のセットの見事さや、動くタコのぬいぐるみのキッチュな魅力などを堪能することが出来るようになっている。

 「月世界旅行」(1902)の影に隠れて、あまり知名度の高くない作品だが、映像トリックではなく舞台の夢幻劇の魅力を最大限に発揮した作品として、もっと評価されてもいいのではないだろうか?


「APPARITIONS(LE REVENANT) 」(1903)
 
 ホテルにやって来た男。テーブルの上に置かれた燭台が動き出し、しまいにはゴーストまで登場する。

 これまでの焼き直しの部分も多いが、最後に登場する半透明のゴーストにはリアリティがある。また、男がゴーストを捕まえようとしてすり抜けてしまうなど、二重写しが効果的に使われている。


「JUPITER’S THUNDERBALLS(LE TONNERRE DE JUPITER) 」(1903)

 ゼウスが雷を発生させようとするが、なぜか女性たちが登場してしまう。

 技術的にはこれまでの焼き直しだが、ギリシア神話の設定にして見た目を変えている。


「TEN LADIES IN AN UMBRELLA(LE PARAPLUIE FANTASTIQUE) 」(1903)
 
 マジシャンが、1本の傘から10人の女性を登場させて、女性たちはポーズを取る。

 1本の傘から10人の女性を登場させる部分は、ストップ・モーションを使ったこれまでの作品の焼き直しといえる。10人の女性がポーズを取るところは、映像トリックとは別の見せ場となっている。


「JACK JAGGS AND DUM DUM(TOM TIGHT ET DUM DUM) 」(1903)
 
 マジシャンが女性のマネキンを持ってきて、本物の女性に変える。

 途中で邪魔者が入って、追い出すという設定が入る。映像トリック自体はこれまでの焼き直しであり、メリエスが様々な要素を組み合わせて工夫している点が見てとれる。だが、映像トリック自体をもっと短い時間(1分程度)で見せてくれた濃密さが、他の要素が入ることで失われてしまっているようにも感じられる。


「BOB KICK, THE MISCHIEVOUS KID(BOB KICK, L’ENFANT TERRIBLE) 」(1903)
 
 子供が、テーブルの上に現れた頭をやっつけようとするが、逆にやっつけられる。

 これまでにもあったパターンを、主人公を子供に変えている。


「EXTRAORDINARY ILLUSIONS(ILLUSIONS FUNAMBULESQUES) 」(1903)
 
 マジシャンがマネキンを女性に変えてみせる。

 アイデアとしては前にもあった作品の焼き直しだが、テンポやタイミングに加えて、見せ方や終わり方など、メリエスのエンターテイナーとしての腕前を感じさせる作品である。

 何よりもテンポがいい。間に女性がコックに変わってマジシャンを驚かせたり、紙吹雪で画面を華々しくしたりといったアクセントが効いている。メリエスが踊りながら、徐々に透明になっていく終わり方も、締めとしては申し分ない。


「ALCOFRIBAS, THE MASTER MAGICIAN(L’ENCHANTEUR ALCOFRIBAS) 」(1903)
 
 洞窟の中でマジシャンが男に美しい女性の姿を見せるが、最後にはゴーストになってしまう。

 セットが工夫され、途中で女性の顔が巨大に映し出されたりもされるが、全体的にはこれまでの焼き直しの印象がぬぐえない。


「COMICAL CONJURING(JACK ET JIM) 」(1903)
 
 2人のマジシャンが樽を使って、物や人を移動させてみせる。

 トリックはおなじみだが、2人のマジシャンを登場させることで、掛け合いの面白さを加えようという工夫が見られる。


「THE MAGIC LANTERN(LA LANTERNE MAGIQUE) 」(1903)
 
 2人のピエロが幻灯機を使って、巨大な映像を映し出す。すると、幻灯機の中から大勢の女性たちが現れて踊り出す。

 映画内映画を二重写しで見せるといった工夫がされているが、何よりも問答無用で踊りまくる女性たちの姿がシュールですらある。


「THE BALLET MASTER’S DREAM(LE REVE DU MAITRE DE BALLE) 」(1903)
 
 バレエの振付師が悩みながら眠りに落ちると、女性が踊る姿を夢に見る。

 振付師が眠ると、寝室の背景がそっくり洞窟に変わる。背景自体が変わるトリックは、これまでのメリエスの作品にもありそうで、なかったように思う。


「FAUST IN HELL(FAUST AUX ENFERS) 」(1903)
 
 メフィストフェレスファウストを地獄へと連れて行く。

 洞窟の奥深くへと入っていくのを幾重になっている書き割りを動かすことで表現する舞台的な演出、メフィストフェレスの格好をしたジョルジュ・メリエスの生き生きとした演技(メリエスは悪魔の格好が好きなようだ)、火や煙に紙吹雪を駆使した濃密な画面、頭からたくさんの触手が生えたキッチュなクリーチャー、踊りまくるたくさんの女性たちと、舞台人としてのメリエスの魅力に、二重写しなどの映像トリックも絡ませた堂々たる作品だ。

 一応ストーリーはあるが、正直よく分からなかったのが、残念。「月世界旅行」(1902)の素晴しさの1つに、ストーリーの単純さがあることに、このような作品に出会って気づいた。


「LA FLAMME MERVEILLEUSE」(1903)

 製作国フランス 英語題「THE MYSTICAL FLAME」
 スター・フィルム製作 監督・製作・出演ジョルジュ・メリエス

 奇術師が炎の中に、女性の像を浮かび上がらせる。

 二重露出を使った多くのメリエス作品の1つ。後半は奇術師と助手の追いかけっこを、ストップ・モーションを使った入れ替えや消失といった映像トリックで見せる。


「魔術師アルコフリバス(L'enchanteur Alcofrisbas)」(1903)

 製作国フランス 英語題「THE MYSTICAL FLAME」
 スター・フィルム製作 監督・製作・出演ジョルジュ・メリエス

 魔術師が男に魔法を見せる。女性が炎に焼かれても無事で、空中に浮かぶ。

 二重写しを使って、舞台のマジック的な内容を映画として表現したもの。舞台は洞窟の中のようで、同時期のメリエス作品の特徴が多く見られる。



私が見たメリエスの映画が見られるDVD・ビデオ
「THE MOVIE BEGIN」(アメリカで発売されているDVD)
「フランス映画の誕生」(ジュネス企画
本「死ぬまでに見たい映画1001本」の付録
死ぬまでに観たい映画1001本