ジョルジュ・メリエス作品集(8)

「不可能な世界への旅行」(1904)

月世界旅行」(1902)の延長線上にある作品とも、焼き直しとも言える。

 月の代わりに今度は太陽に行く人々の姿を描いている。使われている技法も、カメラを1回止めて行う入れ替わりのトリックや、二重写しなど変わっていない。太陽に接近していくシーンなどは、「月世界旅行」の月に接近するシーンとウリ二つだ。この作品では、太陽があくびをしている間に、口の中に乗り物が突っ込んでしまうところだが、それはあまりにもささいな違いだろう。

 「月世界旅行」との最大の違いは、上映時間だろう。この作品は20分以上あり、「月世界旅行」の2倍以上ある。メリエスのイマジネーション溢れるセットは相変わらず魅力的だし、機関車が疾走するシーンや「銀河鉄道999」のように、空に飛び立っていくシーンではなかなかの疾走感を生み出してくれたりもしているのだが、いかんせん二番煎じの感が拭えない。

 入れ替わりのトリックも、凍ってしまった人々を火を焚いて溶かすなど、ストーリーと関係があるように使われているのだが、その工夫が逆にメリエスが苦労していることを物語っているかのようだ。「月世界旅行」が、短い時間で切れ味鋭く、映画のトリックの楽しさやメリエス作品の夢幻性を焼き付けているのに対して、この作品は上映時間が長くなることで、インパクトが薄まっているように思える。何にも増して、「月世界旅行」の焼き直しであることを知ると特にそう感じる。

 この作品が製作された1904年は、まだメリエスの映画が人気を得ていた時代であるが、メリエスが題材の面で行き詰まり始めていたのであろうことを感じさせる作品だ。
メリエスは「月世界旅行」の頃から何も変わっていない。だから、つまらない作品では決してない。だが、1度いい演技を見せた役者は、次にそれなりにいい演技を見せてもなかなか評価されない。前と同じ役柄であればなおさらのことだ。この映画はそんな映画だ。


「THE TERRIBLE TURKISH EXECUTIONER(LE BOURREAU TURC) 」(1904)
 
 トルコの路上に4人の罪人が連れてこられ、処刑人によって首を切られる。

 この作品は面白い。4人の罪人が首を切られるシーンは、巨大な剣のキッチュさに、ストップ・モーションとマスクを使った映像トリックが加わり、一瞬で4人の首が刎ね飛ぶコミカルさを漂わせるものとなっている。

 その後もいい。切られて樽に入れられた首が自動的に動き出し、体にくっつく。そして、今度は処刑人が胴体から半分に切られるのだ。ここでも、ストップ・モーションとマスクを使った見事な映像トリックで楽しませてくれる。

 この頃のメリエスの作品は、時間が徐々に長くなったことに加えて、トリックがかつての焼き直しに過ぎないために、退屈さを覚える作品も多い。そんな中、この作品はブラックさとコミカルさを加えた非常に面白い作品に仕上がっている。

 残酷な処刑人を淡々と演じるジョルジュ・メリエスの演技も見事さも指摘しておきたい。


「A MOONLIGHT SERENADE(AU CLAIR DE LA LUNE OU PIERROT MALHEUREUX) 」(1904)
 
 ピエロがある屋敷の前で唄を歌っていると、屋敷の男が出てきて追い払おうとする。

 男は月の女王に助けられるのだが、月が男に近づいてくるときは「月世界旅行」(1902)に似た、真ん中に人間の顔になっている月を見ることができる。


「TIT FOR TAT(UN PRETE POUR UN RENDU) 」(1904)
 
 男が自分の頭の分身を箱に入れて、タバコの煙を吹きかけるなどの嫌がらせをする。

 分身の頭が動き出して、男に水を吐きかけたて逆襲するといった展開も楽しいが、最も面白かったのはオープニング。カツラを付け忘れたことにメリエス演じる男が気づき、急いでカツラをつけるも爆発した髪形で別のものに取り替えるというちょっとしたギャグに、メリエスのエンターテイナーとしての実力を感じる。


「THE BEWITCHED TRUNK(LE COFFRE ENCHANTE) 」(1904)
 
 マジシャンが箱の中に自ら入ったり、人を取り出したり、消したりする。

 トリック自体は他の作品で使われているものの焼き直しだが、1つの箱にこだわってテンポよく楽しませてくれる。


「THE CLOCKMAKER’S DREAM(LE REVE DE L’HORLOGER) 」(1904)
 
 時計職人が眠りに落ち、3人の女性たちが登場して様々なポーズを取る夢を見る。

 メリエスの作品の中では、非常にテンポがゆったりとした作品。時計職人という登場人物のキャラクターも考えると、このゆったりとしたテンポは映画のないように合っているように思える。


「THE IMPERCEPTIBLE TRANSMUTATIONS(LES TRANSMUTATIONS IMPERCEPTIBLES) 」(1904)
 
 男が紙の筒から子供を登場させ、子供を女性へと変身させる。

 これまでにも使われたトリックの焼き直し。


「A MIRACLE UNDER THE INQUISITIION(UN MIRACLE SOUS L’INQUISITION) 」(1904)

 老人が若い女性を部屋に連れてきて、火刑にする。

 女性を柱に縛り付ける際に白い布を被せて火をつけるのだが、その火に勢いが猛烈なため、ただそれだけでスペクタクルを感じさせる。

 後半は女神が現れて、老人が縛り付けられて火刑に処される。ここでは、二重写しで燃え上がる火が映し出され、うまく撮影されていることもあり、なかなかのリアリティがある。

 同じ火刑だが、片方は実際の炎で、片方は二重写しで見ごたえのある映像を見せてくれる。


「FAUST AND MARGUERITE(DAMNATION DU DOCTEUR FAUST) 」(1904)
 
 ファウストの映画化。ファウストメフィストフェレスの力によって若返り、マルガリータに恋をする。

 私が見たのは全体ではなく、現存している一部分のみ。悪魔を好んで演じたメリエスが、生き生きとしてメフィストフェレスを演じているが、全体的には舞台的な印象が強い。


「THE DEVILISH PLANK(LA PLANCHE DU DIABLE) 」(1904)
 
 2つの籠の中から、2人の女性が現れて、ダンスを踊った後、再び籠の中へ消えていく。

 これまでに作られた作品の焼き直しの印象が強い。


「THE FIREFALL(LA CASCADE DE FEU) 」(1904)
 
 いさかいをする夫婦が悪魔によって地獄に落とされる。

 二重写しを使った早い場面展開が特徴的だが、その他はこれまでに作られた作品の焼き直しの印象が強い。


「LES APPARITIONS FUGITIVES」(1904)

 製作国フランス 英語題「FUGITIVE APPARITIONS」
 スター・フィルム製作 監督・製作・出演ジョルジュ・メリエス

 奇術師が兵士の格好をした女性を消したり、移動させたりする。

 ゆったりとしたリズムで進む作品で、メリエスのストップ・モーションを使った作品のオーソドックスな形の作品だ。と思ったら、ラストは急にテンポを増して、メリエスが飛び跳ねて消えていく。この緩急にメリエスのエンターテイナーぶりが発揮されている。


「LE JUIF ERRANT」(1904)

 製作国フランス 英語題「THE WANDERING JEW」
 スター・フィルム製作 監督・製作・出演ジョルジュ・メリエス

 雷雨の中、1人のユダヤ人が荒野をさすらう。

 二重写しをドラマに使用した作品ともいえるが、ストーリーを語るというよりはワン・シーンを描いているといった方が正確だ。特筆すべきは、メリエスによるセットの効果的な使用だ。雷鳴が轟くたびに光る空を数パターン見せる演出は、舞台的とはいえ確かな腕前を感じさせる。



私が見たメリエスの映画が見られるDVD・ビデオ
「THE MOVIE BEGIN」(アメリカで発売されているDVD)
「フランス映画の誕生」(ジュネス企画
本「死ぬまでに見たい映画1001本」の付録
死ぬまでに観たい映画1001本