ジョルジュ・メリエス作品集(11)

「飲んだくれのポスター(The Hilarious Posters)」(1905)

 壁に張ったポスターが突然動き出して通りがかりの警官を驚かせる。

 トリックとしては、絵で描かれたポスターが突然実際の人間に変わるところの切り替わりと、実際の人間に替わったポスターの1部が合成で小さな人間を表現しているところ。

 この作品の見所は、完成されているといってもいいドタバタのテンポだ。警官がポスターの前を通り、ポスターが実際の人間たちに変わる。ポスターの人間たちは警官に様々なものを投げつける。怒った警官たちポスターの方に向かっていくと、ポスターごと後ろに倒れてしまう。倒れたポスターの後ろには、先ほどのポスターの人間たちが警官を嘲笑しながら、ポスターの前にダンスしながら回りこむ。警官たちが前に向かってこようとすると、倒れていたポスターが元に戻り、警官たちはポスターにはまり込んでしまう。

 この一連のテンポのよさは、説明のしようがない。ぜひ、1度見て欲しいと思う。私はあまりのテンポのよさに感動すら覚えてしまった。

 また、この作品は権力への反抗心が見られるのも特徴だ。ポスターに閉じ込められた人物たちは、権力に押しつぶされそうな一般人の暗喩とも言えるし、だからこそラストで警官がポスターに絡み取られるシーンは抜群に小気味いいのだ。

 この作品は、トリックだけが注目されがちなメリエスの作品のスパイスともいえるテンポへの配慮を知る上でもっとも分かりやすい作品といえるかもしれない。メリエスの映画がなぜおもしろいか?その秘密はテンポにある。


私が見たメリエスの映画が見られるDVD・ビデオ
「THE MOVIE BEGIN」(アメリカで発売されているDVD)
「フランス映画の誕生」(ジュネス企画
本「死ぬまでに見たい映画1001本」の付録
死ぬまでに観たい映画1001本