ジョルジュ・メリエス作品集(16)

「The Eclipse」(1907)

 1人の学者が生徒たちに日食について説明している。日食の時間が来て、学者や生徒たちは日食の様子や他の星たちを眺める。興奮しすぎた学者は、窓から落ちてしまい、生徒たちが学者を介抱する。

 9分というメリエスの作品にしては長い作品となっている。「月世界旅行」(1902)と似た部分が多々ある。冒頭の学者が生徒たちに日食について教えるシーン(黒板を使用するところも同じだ)、顔のついた月と太陽などがそうだ。

 オープニングとラストが学者や生徒たちの現実的なシーンで、2つに挟まる形で日食や流れ星などの幻想的なシーンをトリックを使用して描かれる。日食を表現している点は新しいが、そのほかはいつものメリエス映画にも登場したことのあるものが多い。

 それにしても、なぜオープニングとエンディングの現実的なシーンが必要だったのか。これらのシーンはスラップスティック的な乗りもあり、それなりに見所がないわけではないが、それほど面白いわけではない。人気が落ちてきていたメリエスの苦悩が伺える。

 ちなみに、日食のシーンで月が太陽に完全に重なると、月に浮かんでいる顔が快感を感じているように見えるという指摘があった。また、月の人物は女性のようにも見えるが、男性といえなくもなく、初めてのゲイ・フィルムだという指摘もあった。


「ROGUES’ TRICKS(LA DOUCHE D’EAU BOUILLANTE)」(1907)

 2人の男が強盗に入るが、主人が帰宅したのに気づき、タンスの中に隠れる。

 その後、浴槽に隠れ場所を移した強盗と家の主人のドタバタの追っかけが展開される。ステージの上で展開されるドタバタはヴォードヴィルの出し物を見るかのようだ。


「THE SKIPPING CHEESES(LES FROMAGES AUTOMOGILES)」(1907)

 市電の中で臭いチーズを持った女性が警官に連れ去られる。その後、チーズが動き出して、後を追う。

 臭いチーズが自分で動いて、警官の顔に貼り付いて匂いで倒してしまうというナンセンスな展開と、そんなチーズを大事にする女性の姿は、ある意味ホラーだ。


「TUNNELLING THE ENGLISH CHANNEL(LE TUNNEL SOUS LA MANCHE OU LE CAUCHEMAR ANGLO-FRANCAIS)」(1907)

 フランス大統領とイギリス国王が、ドーバーとカレー間の海峡トンネルについて協議する。

 このトンネルが実際に開通するのは1990年だから、映画が作られてから84年も後のことになる。しかし、2国間のトンネルは当時から実現が議論されていたのだろう。

 トンネルの建設が、ミニチュアやセットを駆使されて表現されている。ここでの描写は平凡的とも没個性的とも言えるものだが、当時の人々にとってはリアルな題材であっただけに興味溢れるものだったと思われる。


「SIGHTSEEING THROUGH WHISKY(PAUVRE JOHN OU LES AVENTURES D’UM BUVEUR DE WHISKY)」(1907)

 遺跡に旅行に来た女性の執事が、ウィスキーを飲んで夢を見る。

 突如美しい女性たちが現れたりといった、これまでのメリエス映画でも描かれたパターンを、遺跡を見に来た女性の執事という設定にすることで、最後にちょっとした落ちにつながっている。



私が見たメリエスの映画が見られるDVD・ビデオ
「THE MOVIE BEGIN」(アメリカで発売されているDVD)
「フランス映画の誕生」(ジュネス企画
本「死ぬまでに見たい映画1001本」の付録
死ぬまでに観たい映画1001本