ジョルジュ・メリエス作品集(15)

「The Black Imp」(1905)

 宿にやってきた男が、いつのまにか移動するタンスや、増殖する椅子などに驚く。犯人の悪魔と追いかけっこになるが、最後にはボヤ騒ぎまで起こしてしまい、宿主から追い出されてしまう。

 ポルターガイスト的な展開に、現在のホラー映画の祖父であるという指摘もされていた。


「The Enchanted Sedan Chair」(1905)

 箱の中から、中世の衣装を取り出すと一瞬のうちに、衣装を着た女性へと変わる。次にマネキンに服を着せると、マネキンが実際の人間へと変わる。

 マジックの出し物のような作品に、中世風の衣装が味付けとなっている。


「DETRESSE ET CHARITE」(1905)

 製作国フランス 英語題「THE CHRISTMAS ANGEL」
 スター・フィルム製作 監督・製作ジョルジュ・メリエス

 クリスマスの夜。貧しい家の少女が物乞いをするが、誰も相手にしてくれず、雪の中で行き倒れてしまう。

 メリエスの代名詞である映像トリックは1か所しか使われていない。しかも、不幸な境遇にある家族を見守るように天使が登場するだけで、非常に地味な使い方だ。その代わりにこの映画にあるのは、舞台劇である。カメラは固定されており、映画的な面に欠けるものの、1つのちょっとした舞台劇の映像化として真摯に作られている。舞台人だったメリエスは、舞台劇という枠の中でも一流であったであろうことがこの作品から伝わってくる。


「LE BAQUET DE MESMER」(1905)

 製作国フランス 英語題「A MESMERIAN EXPERIMENT」
 スター・フィルム製作 監督・製作ジョルジュ・メリエス

 魔術師が8体の銅像に服をかけていくと、銅像は生きた女性に変身して踊り出す。

 ダンスを撮影した作品は映画草創期に数え切れないほど作られてきた。だが、銅像を女性に変身させたりといった、ちょっとした点を付け加えるだけでアクセントの利いたメリエスらしい作品に早変わりする。この作品を見ると、同時期に多くの映画を作った人々と比べて、メリエスがいかにサービス精神旺盛かを感じ取ることができる。


「L'ILE DE CALYPSO」(1905)

 製作国フランス 英語題「THE MYSTERIOUS ISLAND」
 スター・フィルム製作 監督・製作ジョルジュ・メリエス

 洞窟のやって来た戦士は、美しい女性に誘惑されるが、洞窟には恐ろしい怪物が潜んでいた。

 二重露出が効果的に使われた冒険譚。「月世界旅行」(1902)の人間の顔を持った月など、キッチュな擬人化が魅力的なメリエスだが、ここでは人間の手をそのまま拡大して見せる。メリエスにしては珍しい方法だが、手には特に加工はほどこされていないため、急にリアリティのある存在が拡大して見せられるとメリエスの世界観とは合わないように感じられた。メリエスもそう思ったのか、他の作品では顔以外のものそのまま拡大する方法はあまり取られていない。


「LE DIRIGEABLE FANTASTIQUE」(1905)

 製作国フランス 英語題「THE INVENTOR CRAZYBRAINS AND HIS WONDERFUL AIRSHIP」
 スター・フィルム製作 監督・製作ジョルジュ・メリエス

 飛行船を開発した発明家は、完成した飛行船が墜落する夢を見る。

 二重露出を効果的に使った作品だが、新鮮さは感じられない。


「The Mysterious Retort」(1906)

 一人の魔術師と思われる男が実験室のような部屋でうたた寝をしていると、そこに蛇が現れる。蛇は蜘蛛などに姿を変えていく。

 幻想的な内容の作品。


「A MIX-UP IN THE GALLERY(UNE CHUTE DE CINQ ETAGES)」(1906)

 ある写真館に助手がヘマをして、カメラを外に落としてしまい、路上では大混乱が起きる。

 メリエス流の映像トリックは影を潜めているが、上から落ちてきた三脚がついたカメラを頭から被る形になり、其の姿が巨大な角の生えた牛のように見えて大混乱が起こるのが、見た目といい展開といい、楽しませてくれた。


「THE CHIMNEY SWEEP(JACK LE RAMONEUR)(煙突掃除夫ジャック)」(1906)

 王子になる夢を見た煙突掃除の少年が、煙突に隠された宝箱を見つける。

 序盤の夢の中の描写と、夢から醒めた後の描写のギャップが特徴的な作品だ。夢の中ではいつものメリエス映画の世界が広がり、夢から醒めて宝箱を見つけた少年が追いかける大人たちから逃げるところでは、何と野外撮影が行われている。メリエスは初期の習作的な作品で野外撮影を行っているが、スタジオで撮影するようになってからは、人工の世界を作り上げ続けていた。

 夢と現実のギャップが表現されていると言いたいところだが、煙突掃除の場面やラストの小屋の場面は明らかにセットのため、あまり効果的であるとは思えなかった。

 当時は追っかけ映画も多く作られていたため、その流れにメリエスも乗ろうとしたのだろうか。メリエスの映画製作への苦悩が感じられる作品である。


「THE LUNY MUSICIAN(LE MAESTRO DO-MI-SOL-DO)」(1906)

 楽器を弾こうとするミュージシャンは、楽譜台が動いたり楽器が大きくなったりしてうまくいかない。

 メリエスがこれまでに多く作ってきたタイプの作品。お得意のストップ・モーションを使った入れ替えトリックが華麗に使われている。新鮮味がないと言ってしまえばそれまでだが、名人芸を見るような安心感がある。


「THE TRAMP AND THE MATTRESS MAKERS(LA CARDEUSE DE DATELAS)」(1906)

 マットレスを作っている工場にやって来た浮浪者が、マットレスの中で居眠りしてしまう。

 マットレスの中で眠っている浮浪者がそのまま縫い付けられてしまい、浮浪者が起きて動き出すと、化け物と間違えられるというコメディになっている。ヴォードヴィルでありそうな内容で、当時のメリエスが題材をヴォードヴィル的にすることで新しい魅力を生み出そうとしていたことがわかる。

 最後には、ヴォードヴィルに登場しそうな酔っ払いの扮装をした人物が楽しそうに酒を飲むアップのショットが挿入されている。「大列車強盗」(1903)のラストを思わせるこの唐突なショットにも、映像トリックのみではなくヴォードヴィルの要素を取り入れようというメリエスの考えがうかがえる。


「A DESPERATE CRIME(LES INCENDIAIRES)(放火犯人たち)」(1906)

 放火強盗一味の1人が逮捕され、ギロチンにかけられる。

 人気の衰退にあせったメリエスが、新機軸としてリアリティのある犯罪ドラマを題材とした作品と言われている。ストーリー的には、フェルディナン・ゼッカの「ある犯罪の物語」(1901)と似ている。

 放火強盗と警官の追いかけっこは屋外で撮影されており、当時人気だったら追いかけ映画の要素を取り入れている。ラストのギロチンの処刑で首が落ちるショットは、メリエスお得意のストップ・モーションを使った映像トリックが効カ的に使われている。

 人気が落ちてきていたというメリエスの苦労が感じられる作品だが、独創性に欠け、メリエスならではの魅力に乏しい作品と感じた。


「A RORDSIDE INN(L’HOTEL DES VOYAGEURS DE COMMERCE OU LES SUITES D’UNE BONNE CUITE)」(1906)

 ある宿屋で、酔っ払ってうるさい男を懲らしめるために、他の客たちが幽霊のフリをして脅かす。

 画面の真ん中から左が廊下、右が酔っ払いの部屋と分かれているのが、いかにも舞台的な表現のように感じる。映像独自の面白さを追求していた時代から、メリエスは遠く離れてしまったような寂しさを感じさせる。


SOAP BUBBLES(LES BULLES DE SAVON VIVANTES)(生きているシャボン玉)」(1906)

 マジシャンがシャボン玉の中に女性の顔を浮かばせたり、自分自身が巨大なシャボン玉になったりする。

 メリエス流の映像トリックを使用した作品で、シャボン玉を使うという点がメルヘンチックだが、全体的には過去の焼き直しといった印象の作品だ。


「THE MERRY FROLICS OF SATAN(LES QUATRE CENTS FARCES DU DIABLE)(悪魔の400の悪ふざけ)(悪魔の大騒ぎ)」(1906)

 悪魔とそそのかされた男性が、列車に乗って旅に連れて行かれる。

 旅はメリエスの大作に欠かせない要素の1つだ。「月世界旅行」(1902)もそうだ。約17分のこの作品は、描かれる内容といい、撮影の仕方といい、これまでのメリエスが作ってきた作品のあらゆる要素が詰まっている。

 メリエス作品の魅力の1つにセットやミニチュアの素晴しさがある。元々が舞台人で、美術も手がけた才人だけあって、時にリアリティに溢れ、時にデフォルメされたセットは、魅力に溢れている。この作品でも、列車の造形から、列車が山の中を走るときの背景など、その魅力は存分に込められている。

 ストップ・モーションを使った映像トリックも存分に使われているし、馬車を引っ張る骸骨の馬が疾走するシーンは、馬の造形自体の魅力に加えて、背景を動かして見事に疾走を表現している(途中には真ん中が女性の顔になっている星が浮かんでいる。この星は「月世界旅行」(1902)などに登場したメリエスのお気に入りだ)

 メリエスの映画を多く見てきた自分にとっては、この作品はとっても愛着が湧く作品だ。だが、残念なことに胸躍るような興奮は湧いてこない。それは、メリエスらしい作品ではある一方で、過去の焼き直しの部分が多いからだろう。


「THE WITCH(LA FEE CARABOSSE OU LE POIGNARD FATAL)」(1906)

 愛する女性を助けるために、1人の男が魔女から逃げたり、モンスターと戦ったりする。

 シンプルなストーリー、次から次に現れる障害物との対決の楽しさが、メリエス流の映像トリックによって増幅された作品だ。ストップ・モーションであらわれたゴーストや、作り物感満載のキッチュな怪物たちなど、見所は満載だ。

 これまでのメリエス作品の流れを組んだ、焼き直しということはできるだろう。だが、ウェルメイドな焼き直しである。家具販売店で、親が買い物をしている間、子供たちを楽しまされるためにこの作品が上映されたりもしたらしい。確かに、この作品のシンプルな魅力は子供たちを短い間楽しませるにはうってつけだ。



私が見たメリエスの映画が見られるDVD・ビデオ
「THE MOVIE BEGIN」(アメリカで発売されているDVD)
「フランス映画の誕生」(ジュネス企画
本「死ぬまでに見たい映画1001本」の付録
死ぬまでに観たい映画1001本