エジソン社の作品 1901年
エジソン社はこの年(1901年)、ニュー・ジャージーの撮影所、通称「ブラック・マリア(囚人護送車)」のほかに、ニューヨークに撮影所を建設している。
「OLD MAID HAVING HER PICTURE TAKEN」
写真屋で写真を撮ってもらおうとしている女性。壁にかかったポスターや時計が落ち、鏡を見ていると割れ、いざシャッターを切るとカメラが煙を上げて爆発するというコント。
セットで撮影されている。
ちょっとした展開があるのが特徴。エドウィン・S・ポーターが製作している。
「ANOTHER JOB FOR THE UNDERTAKER」
初老の男性がホテルと思われる部屋に通されると、カバンや帽子は自然に消えてなくなり、椅子に座ろうとすると椅子が消えて転んでしまう。最後に霊柩車が走るショットが入り、男性が死んだことが示される。
ジョルジュ・メリエス風の作品。ストップモーションによる入れ替えトリックが多用されている。
見世物的要素が強い作品だ。
「HIGH DIVING SCENE」
かなり高いところに組まれたジャンプ台から自転車に乗った男性がダイブして、張られた水に着水する様子を撮影。
危険なスタントで、一見の価値がある。今では行われないような危険なスタントだ。
「SAMPSON AND SCHLEY CONTROVERSY - TEA PARTY」
貴婦人たちと海軍の士官がお茶をしている。
この作品は3部作で、士官が指揮をしてスペイン軍との海戦に勝つ様子の部分があるという。その部分がないと、ただ楽しくお茶を飲んでいるだけだ。
「THE MYSTERIOUS CAFE」
老夫婦がカフェへとやって来る。だが、椅子が一瞬で移動したり、テーブルがなくなったりという不思議な現象が起きて、老夫婦は慌てふためく。
ジョルジュ・メリエス流のストップ・モーションを使った作品だが、それほど面白くない。この分野でのメリエスの素晴らしさを再認識させられる。
「SAMPSON AND SCHLEY CONTROVERSY」
遠景でスペイン軍と戦艦と地上の砲台の撃ち合いをショットのあと、地上の砲台から戦艦に向けて砲撃する人々の様子のショットへと映る。
「SAMPSON AND SCHLEY CONTROVERSY - TEA PARTY」とつながるらしいが、お茶のシーンが戦闘の前なのか、後なのかはわからない。
戦艦はミニチュアだが、モノクロの荒い画面ということもあり、なかなかリアリティがあるように感じられた。
地上の砲台で戦う兵士の中には戦死者もいる。一方で、士官は遠くからわめいているだけで、貴婦人とお茶をしたりもしている。このあたりに、戦争の不条理さを若干感じさせもする作品だ。
「TERRIBLE TEDDY, THE GRIZZLY KING」
1人の男性が狩りをしている様子を、カメラマンと記者が追いかけている。
狩猟を趣味としていたことで有名だったセオドア・ルーズベルト(当時はまだ大統領ではない)を風刺した作品。当時、ルーズベルトが狩りをする様子を、新聞社が取材することが多く、そのことを風刺している。記者の胸には「PRESS AGENCY」という紙が貼られており、一目でそれとわかるようになっている。この方法は、当時の新聞などでの風刺漫画の手法を用いたものだという。
短い作品だが、政治を風刺した最初期の作品の1つとして貴重な作品と言えるだろう。
「BUILDING A HARBOR AT SAN PEDRO」
港を作るために、クレーンで巨大な石を海に投げ入れる様子を撮影。
船から撮影しているため、画面が上下に揺れて見にくい。また、4分強にわたり、ほぼ同じ映像がくり返されるのも、少しつらい。
「DUKE OF YORK AT MONTREAL AND QUEBEC」
イギリスのヨーク公が、カナダのモントリオールとケベックを訪れた様子を撮影。
「LOVE IN A HAMMOCK」
ハンモックに座ってキスを交わすカップル。そこに2人の少年がやってきて、こっそりとハンモックと木を結んでいる紐を緩める。
この後、ハンモックが落ちて混乱へ向かうらしいが、私が見たバージョンは、その前で終わっていた。
「THE TRAMP’S UNEXPECTED SKATE」
寝ている浮浪者の足に、2人の少年がローラー・スケートをつける。起きた浮浪者は、うまく歩くことが出来ずに転んでしまう。1分に満たない軽いコメディ。
「CATCHING AN EARLY TRAIN」
寝坊した男が急いで服を着ようとすると、まるで服の方が男に引き寄せられるかのような動きを見せる。
服を脱ぐ様子を撮影し、それを逆回ししている。アイデアが面白い。1分もないので、アイデアだけでも楽しめる作品だ。
「A TRIP AROUND THE PAN-AMERICAN EXPOSITION」
パン・アメリカン博覧会の会場に張り巡らされた運河に航行するボートにカメラを乗せ、会場の概観を見せる。1900年に開催されたパリ万博の映像も多く残されており、博覧会が映画の被写体として人気があったことを感じさせる。
参加した各国による巨大な建造物などの一端を垣間見ることができ、行ってみたい気持ちにさせられる。だが、あくまで概観なので、もう少し具体的な中身も見てみたかった。
余談だが、この博覧会で、日本人によって開発されたインスタント・コーヒーがお披露目したのだという。
「AUNT SALLIE’S WONDERFUL BUSTLE」
大きな建物の上で周りを眺めている女性が、突風で落ちてしまうが、跳ね返って元に戻る。
おそらく見えないところにトランポリンを設置しているものと思われる。面白いアイデアだ。
「PRESIDENT MACKINLEY’S FUNERAL CORTEGE AT BUFFALO, N.Y.」
マッキンリー大統領の葬列の様子を撮影。
マッキンリー大統領は、1901年にパン・アメリカン博覧会の会場で銃撃され、死去している。
葬列の様子は、正直言って冗漫でつまらない。だが、パン撮影で撮られた、遺体安置所の周りを取り囲む人々の多さは圧巻だ。
決して面白い作品ではない。だが、時の大統領の暗殺ということから、恐らく多くの映画館でこの作品が上映されたことだろう。
「THE ARTIST’S DILEMMA」
1人の画家の前に女性があれわれ、自分の絵を描いて欲しいと頼む。続いてピエロが登場し、1本の刷毛で女性を短時間で書いてしまう。しかも、絵で書かれた女性がキャンバスから飛び出して、モデルだった女性と共に踊りだす。
ジョルジュ・メリエス流のストップ・モーションのトリックと、逆回しのトリック(ピエロが刷毛で絵を黒く塗るシーンを逆回しで、絵を描いているように表現されている)が組み合わさった作品。
さらには、かつてのエジソン社で多く作られたダンサーが踊る様子を撮影したシーンを、トリック映画の中にうまく組み合わされた、数分程度の短時間で楽しませてくれる作品の集大成的な作品ともいえる。
「GORDON SISTERS BOXING」
2人の女性がボクシングをする様子を撮影。
フランス風の広大な庭の書割の前で、ドレスを着た女性がボクシングをしている点が特徴。
「LIFE RESCUE AT LONG BRANCH」
海で溺れる女性を、ボートに乗った救助隊が助ける様子を撮影。
「MONTREAL FIRE DEPARTMENT ON RUNNERS」
何台もの消防馬車が、大急ぎで走っていく様子を撮影。
「PRESIDENT MACKINLEY’S FUNERAL CORTEGE AT WASHINGTON, D.C.」
マッキンリー大統領の、首都ワシントンでの葬列の様子を撮影。
大統領が狙撃されたバッファローでの葬列が別の作品となっている。両方とも、当時の通常の作品よりも長い時間(といっても合計で6分程度)が割かれている点が、事件の大きさを物語っている。
この作品も葬列自体はおもしろくないが、葬列を見に来た人々の数に圧倒される。そんな中、カメラに興味津々な子供たちの姿が、事件の暗さと対照的で、なんだか頼もしくすら感じられる。
「SHAM BATTLE AT THE PAN-AMERICAN EXPOSITION」
パン・アメリカン博覧会の最終日に行われた、戦闘の演習の様子を撮影。
多くのネイティブ・アメリカンも参加して、大々的に行われたものらしい。
「PRESIDENT MCKINLEY AND ESCORT GOING TO THE CAPITOL」
首都ワシントンにおけるマッキンリー大統領の葬列の様子を撮影。
「PRESIDENT MCKINLEY TAKING THE OATH」
1900年の選挙で再選されたマッキンリー大統領の宣誓式の様子を撮影
恐らく、初めてアメリカ大統領の宣誓式が映像で記録された例なのではないだろうか。それまでの宣誓式が写真と文章で記録されていただけだと考えると、映像の持つ記録性の確かさが重く感じられる。ただ、遠めからの映像なので、はっきりと記録されていない点が残念。
「PAN-AMERICAN EXPOSITION OPENING」
パン・アメリカン博覧会のオープニング式典の様子を撮影。
正装をした男性たちの行列や、兵隊の行進が続く。
この博覧会の作品は多い。当時の人びとの興味の高さが伺える。
「HORSE PARADE AT THE PAN-AMERICAN EXPOSITION」
パン・アメリカン博覧会における、馬のパレードの様子を撮影。
「PANORAMIC VIEW OF ELECTRIC TOWER FROM A BALLOON」
パン・アメリカン博覧会の展示物の1つである塔を撮影。
気球にカメラを乗せて、徐々に上に移動しながら撮影されている。
「PRESIDENT MACKINLEY’S SPEECH AT THE PAN-AMERICAN EXPOSITION」
パン・アメリカン博覧会におけるマッキンリー大統領のスピーチの様子を撮影。
スピーチといっても、サイレント映画なので何を言っているのかはわからない。ここで重要なのは、パン・アメリカン博覧会という大イベントと大統領という興行価値がある2大要素が組み合わさっていることだろう。
ちなみに、このスピーチの次の日にマッキンリー大統領は銃撃され、その傷が元で死去している。パン・アメリカン博覧会と大統領暗殺という大きな出来事が重なり、この年のエジソン社の作品にはこの2つに関連した作品が多く作られている。
「PRESIDENT MACKINLEY REVIEWING THE TROOPS AT THE PAN-AMERICAN EXPOSITION」
パン・アメリカン博覧会において、兵隊の行進と、閲兵するマッキンリー大統領の様子を撮影。
カメラの位置のため、大統領の姿は遠くでよく見えない。
この作品が撮影された次の日に、マッキンリー大統領は銃撃されている。
「PANORAMA OF ESPLANADE BY NIGHT」
パン・アメリカン博覧会における、ライト・アップされた展示物を撮影。
ライトによってくっきりと輪郭が浮かび上がった様子がきれいだ。ゆっくりとパン移動しながら撮影されている。
「CIRCULAR PANORAMA OF ELECTRIC TOWER」
パン・アメリカン博覧会の会場の様子を、カメラを360度回転させながら撮影。
「JAPANESE VILLAGE」
パン・アメリカン博覧会における、日本の家屋を再現した建物を撮影。
家屋の前で、日本人と思われる少年たちがバック転などの曲芸を見せる。家屋よりも、曲芸に目が行く。
「ESQUIMAUX VILLAGE」
パン・アメリカン博覧会における、エスキモーが生活する村の様子を再現した建造物を撮影。
作り物と思われる氷や雪は、言い方は悪いが、安っぽい舞台装置を思わせる。犬ゾリで走る人の姿がないと、エスキモーの感じはしなかったかもしれない。
「ESQUIMAUX GAME OF SNAP-THE-WHIP」
パン・アメリカン博覧会において、エスキモーと思われる子供たちが、ムチのようなもので地面を叩いて遊ぶ様子を撮影。
「ESQUIMAUX LEAP-FROG」
パン・アメリカン博覧会において、エスキモーの子供たちが馬跳びをして遊び様子を撮影。
「SPANISH DANCERS AT THE PAN-AMERICAN EXPOSITION」
パン・アメリカン博覧会において、ダンスを踊る女性たちの様子を撮影。
「THE MOB OUTSIDE THE TEMPLE OF MUSIC AT THE PAN-AMERICAN EXPOSITION」
マッキンリー大統領銃撃直後のパン・アメリカン会場において、集まった群衆の様子を撮影。
多くの人の頭が撮影されただけのフィルムで、何の説明もないと、まったく意味がわからない。
それでも、「大統領銃撃直後の」という説明が入るだけで、少なくとも当時の人びとは興味深く感じたことだろう。
「ARRIVAL OF MCKINLEY’S FUNERAL TRAIN AT CANTON, OHIO」
マッキンリーの遺体を乗せた列車が駅に到着するようを撮影。
「TAKING PRESIDENT MCKINLEY’S BODY FROM TRAIN AT CANTON, OHIO」
マッキンリーの遺体の入った柩が列車から運び出され、場所に乗せられる様子を撮影。
厳かな雰囲気が伝わってくる。
「PRESIDENT ROOSEVELT AT THE CANTON STATION」
カントン駅におけるセオドア・ルーズベルト大統領の様子を撮影。
マッキンリー大統領の暗殺により、副大統領から大統領となったセオドア・ルーズベルトを撮影したもの。一連の大統領暗殺関連のフィルムは、ニュース映像として多くの映画館で上映されたことだろう。
「PANORAMIC VIEW OF THE PRESIDENT’S HOUSE AT CANTON, OHIO」
暗殺されたマッキンリー大統領の実家に集まる人びとの様子を撮影。
多くの人びとの群れに加えて、銃を持った兵士たちの様子が、出来事の大きさと重大さを物語っている。
「FUNERAL LEAVING THE PRESIDENT’S HOUSE AND CHURCH AT CANTON, OHIO」
マッキンリー大統領の遺体が、建物の中から運び出される様子を撮影。
「MCKINLEY’S FUNERAL ENTERING WESTLAWN CEMETERY, CANTON」
マッキンリー大統領の遺体が、墓地に運ばれていく様子を撮影。
大統領の故郷であるオハイオ州カントンに遺体が運ばれる様子は、いくつかの作品に分けられているものの、列車によって到着し、生家に運ばれ、墓地へ行くまでが映像として記録されている。
「EXECUTION OF CZOLGOSZ, WITH PANORAMA OF AUBURN PRISON」
マッキンリー大統領を暗殺したレオン・チョルゴッシュが電気イスで処刑される様子を再現した作品。
死刑が執行された刑務所の外観を映し出したあと、一目でセットとわかる刑務所内のシーンとなる。演技にリアリティはないが、それでも大事件に関連する一連の作品の最後として多くの人びとに見られたことだろう。
「THE MARTYRED PRESIDENTS」
リンカーンやマッキンリーといった暗殺されたアメリカ大統領の写真が次々に映し出される。
マッキンリーへの追悼の映像といったところだろう。マッキンリー大統領暗殺関連の作品は、実写や再現に加えて、この作品のような抽象的な作品まで、本当に幅広く製作されている。
「KANSAS SALOON SMASHERS」
監督エドウィン・S・ポーター
酒場に着飾った女性たちが殴りこみをかける。男たちを追い出したり、酒瓶を壊したりする。
当時、カンザス州の女性キャリー・ネイションが、アルコールに反対する運動を行っており、酒場の破壊を行った。その出来事を扱った作品だが、全体的な印象はほんわかとした雰囲気が漂っており、どちらかというと女性たちの行動はコミカルなもののように感じられる。
「WHY MR. NATION WANTS A DIVORCE」
母親が出かけているため、子供たちを起こしたりと大忙しの父親。一息ついてウィスキーを飲んでいると、母親が帰ってきて酒を飲んでいる父親を叱りつける。
タイトルにあるMR.NATION(ネイション氏)は、当時のアメリカで禁酒運動を行っていた女性キャリー・ネイションの夫のことである。ネイション氏は、妻が禁酒運動にかまけて家事をしないという不満を、マスコミを通じて訴えていたという。その事実から作られた作品である。
「LOVE BY THE LIGHT OF THE MOON」(1901)
製作国アメリカ エディソン・マニュファクチュアリング・カンパニー製作・配給
監督・撮影エドウィン・S・ポーター
月夜の下で男女がいちゃついていると、月が2人に近づいてきて驚かす。
顔の書かれた月が物理的に近づいていく(蛇腹になっていて、書割から飛び出してくる)というもので、舞台を撮影したような作品。
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