イギリス ジョージ・アルバート・スミスの作品 1903年(2)
「Mary Jane's Mishap」(メアリ・ジェーンの災難)
イギリスの映画製作者、ジョージ・アルバート・スミスによる作品。
ずぼらなメアリ・ジェーンは、かまどに灯油を入れて爆発させ、吹き飛んでしまう。彼女の墓に人々が追悼に訪れているところに、メアリの幽霊が現れる。
メアリ・ジェーンがかまどに灯油を入れるまでの前半部分が非常に画期的で、評価されている作品。どこが画期的かというと、1つのシーンでショットが分割されているからだ。メアリ・ジェーンのロング・ショットとクロース・アップが組み合わされている。それだけなら面白くも何ともないが、この作品ではクロース・アップをストーリーが面白くなるように使われている。
冒頭で薄汚れたメアリがあくびをするクロース・アップから始まる。これだけで、受け手はメアリがずぼらで、少し間抜けな人物である印象を受ける。次にクロース・アップになったときは、メアリが口の周りに汚れをつけてそれを取ろうとするのが描かれる。汚れでヒゲのようになったメアリの面白さが強調される。
このように、ストーリーを進めながら、ここぞというシーンでメアリのクロース・アップが使われている。
かまどに灯油を入れて爆発させたメアリ・ジェーンは煙突から噴射され、バラバラになって落ちてくる。人形を使ったこのシーンは、技術的には稚拙に見えるがシュールなおもしろさがある。
次の墓場のシーンの冒頭は、墓石のクロース・アップから始まる。墓石には「メアリ・ジェーン かまどに灯油を入れた女 ここに眠る」と書かれている。ここも、クロース・アップがなければ表現できないギャグといえるだろう。バラバラになって落ちてくるメアリのショットから、墓石のクロース・アップにつながる編集のテンポもいい。
この作品は、ショットのつなぎを、単純に場面が変わったからショットを変えるというものから、映画をおもしろくするための道具として使っている。
ジョルジュ・サドゥールはこの作品を称して次のように言っている。「映画は自らの視覚的効果を創造し、演劇から解放されたのである」。確かにこの作品は、演劇では表現できない方法で描かれている。
しかし、私は何よりもそれがおもしろく結実していることを高く評価したい。メアリ・ジェーンのキャラクターは伝わってくるし、バラバラになるシュールなギャグから、墓石に至る飛躍のギャグも楽しい。当時ならではのバラバラになるギャグに、現在にも通じる話法が使われ、絶妙なバランスの作品といえるだろう。
(ビデオ紹介)