バイオグラフ社の作品 1908年

「CAUGHT BY WIRELESS」(1908)

 製作国アメリカ アメリカン・ミュートスコープ・アンド・バイオグラフ製作・配給
 監督ウォレス・マッカッチョン 撮影ビリー・ビッツァー 出演D・W・グリフィス

 借金の取り立て屋を殴った男が、警察に追われる身となる。

 15分弱の物語だが、筋が複雑な割には説明が不足しており、スムーズに語られているとは言えない。字幕が無いためということもあるが、映像でも語られているとは言い難い。冒頭からして、取り立て屋と主人公の妻が親密そうに見えてしまったために、2人が浮気をしているのかと疑ってしまった。

 監督になる前のグリフィスが出演している作品であるが、警官のチョイ役で私は完全に見逃してしまった。


「AT THE FRENCH BALL」(1908)

 製作国アメリカ アメリカン・ミュートスコープ・アンド・バイオグラフ製作・配給
 監督ウォレス・マッカッチョン 撮影ビリー・ビッツァー 出演D・W・グリフィス、リンダ・アーヴィドソン

 お互いに内緒で仮面舞踏会に出席した夫婦は、お互いを相手として選び・・・。

 内容としては、非常に古典的なもので、この後に作られるコメディでも使われるものだ。固定されたカメラで真正面から撮影されている。途中で、セット自体を左右に分割して、夫と妻の両方の様子を同時に映し出すという工夫がされている。だが、この工夫は非常に演劇的だ。映画的と言えるのは、夫婦2人のクロース・アップだろう。2人の表情により、映像から怒りが伝わってくる。

 夫をグリフィスが演じているが、パーツの1つといった感じで個性は感じられない。妻を演じているのは、当時のグリフィスの実生活の妻リンダ・アーヴィドソンである。


「CROSSROADS OF LIFE」(1908)

 製作国アメリカ アメリカン・ミュートスコープ・アンド・バイオグラフ製作・配給
 監督ウォレス・マッカッチョン・ジュニア 脚本・出演D・W・グリフィス 出演リンダ・アーヴィドソン、

 父親の反対を押し切って役者になった女性。舞台で成功するが、父親はまだ許してくれない。

 グリフィスが脚本も担当している作品。大げさなタイトルからして、グリフィスの好みが現れている。この作品でも画面の左右を分割したシーンが出てくるが、それほど効果的とは思われなかった。

 劇作家を目指していたグリフィスは、当時の舞台役者が中流階級以上の人々からは蔑まれた存在であったことを熟知しており、その点を脚本に盛り込んでいる。そんなグリフィスは、当時舞台よりもさらに蔑まれていた映画において、大活躍を見せていくことになる。


「HER FIRST ADVENTURE」(1908)

 製作国アメリカ アメリカン・ミュートスコープ・アンド・バイオグラフ製作・配給
 監督ウォレス・マッカッチョン 撮影ビリー・ビッツァー 出演D・W・グリフィス

 家の前にいたはずの少女がいなくなり、両親と警官がペットの犬と一緒に探す。

 イギリスのセシル・ヘップワースが製作し、大ヒットとなった「ローヴァーに救われて」(1905)からアイデアを得て作られたと思われる作品である。ラストに犬のクロース・アップがある点まで似ている。とはいえ、「ローヴァーに救われて」が、犬の活躍にじっくりと焦点を当てた作品なのに対し、この作品は少女がジプシーについていくシーンなどにも時間が割かれ、少し焦点がぼけている。

 当時、バイオグラフ社の作品は人気を高めていた。そのため、実際には違う作品を、バイオグラフ社の作品として上映する興行主も現れていた。バイオグラフ社は対抗作として、映画内「AB」のロゴが入った家具を置くなどして、本物のバイオグラフ社の作品である刻印を施していた。この作品は、ロゴを入れるようになった最初期の作品であり、ジプシーの移動式のピアノに「AB」のロゴが入っている。だが、自社の作品を区別するようになった作品が、「ローヴァーに救われて」からヒントを得て作られたであろう作品であるというには皮肉だ。