D・W・グリフィスの作品 1908年(2)

「THE TAMING OF THE SHREW(じゃじゃ馬馴らし)」

 アメリカン・ミュートスコープ・アンド・バイオグラフ社(後のバイオグラフ社)の作品。

 D・W・グリフィスが監督したこの作品は、シェイクスピアの「じゃじゃ馬馴らし」の映画である。

 原作を一巻(17分)に圧縮したこの作品は、大枠だけを映画化した超ダイジェスト版である。1人のわがままな女性が1人の男性に調教され(調教されるシーンは、何らかの理由で食事を取り上げているところだけ)、最後には愛するようになるということだけがわかる。

 固定されたカメラで舞台を撮影したかのように作られている。役者の演技やセットの舞台的であるために、その印象は増す。グリフィス監督だからと肩に力を入れて見ると、肩透かしを食らうだろう。当時の標準的な有名な原作ものの映画化作品の1つである。


「BLACK VIPER」(1908)

 製作国アメリカ アメリカン・ミュートスコープ・アンド・バイオグラフ製作・配給
 監督ウォレス・マッカッチョン・ジュニア、D・W・グリフィス 出演エドワード・ディロン

 夫を悪漢たちに拉致された妻は仲間たちに助けを求め、追跡劇が始まる。

 ストレートなストーリーを、ロケを使って動きのある作品に仕上げている。特に、崖の上から石や岩を投げる悪漢。それを避ける、追跡者たちのアクションは当時としては迫力のあるものと言えるが、遠目から撮影されているだけで工夫に欠けるのが残念。


「BALKED AT THE ALTAR」(1908)

 製作国アメリカ アメリカン・ミュートスコープ・アンド・バイオグラフ製作・配給
 監督・脚本D・W・グリフィス 出演メイベル・ストートン

 男たちから結婚を敬遠されている女性と結婚する羽目になった男。男は結婚式当日に逃げ出してしまう。

 追っかけコメディだ。逃げ出した男をみんなが追いかける。似たような映画は多く作られているが、大勢の人々が走り、転がる様は壮観だ。


「FATHER GETS IN THE GAME」(1908)

 製作国アメリカ アメリカン・ミュートスコープ・アンド・バイオグラフ製作・配給
 監督・脚本D・W・グリフィス 撮影ビリー・ビッツァー 出演マック・セネット

 年老いた男性が若づくりをして、女性たちにちょっかいを出す。

 後にキーストン社でスラップスティック・コメディの始祖となるマック・セネットが主演しているが、メイクのためもあって、はっきりと認識できない。アイデアとしては面白いが、そこまででとどまっているように感じられた。キーストン社の作品にみられるカオスの魅力はこの作品には見られない。


「MONEY MAD」(1908)

 製作国アメリカ アメリカン・ミュートスコープ・アンド・バイオグラフ製作・配給
 監督・脚本D・W・グリフィス 撮影ビリー・ビッツァー 出演チャールズ・インスリー

 女性の財布を奪った男が、今度は2人組の強盗に襲われる。だが、強盗も仲間割れを起こし・・・。

 D・W・グリフィスらしい教訓劇である。人間の欲望の負の連鎖を描いて見せる。技術的には特筆すべきところはないが、グリフィスの志向が読み取れる作品だ。


「ROMANCE OF A JEWESS」(1908)

 製作国アメリカ アメリカン・ミュートスコープ・アンド・バイオグラフ製作・配給
 監督・脚本D・W・グリフィス 撮影ビリー・ビッツァー 出演フローレンス・ローレンス

 ユダヤ人の娘は父親の反対を押し切ってネイティブ・アメリカンの男性と結婚するが・・・。

 グリフィスは黒人差別主義者だと言われるが、決して人種差別主義者ではないことが、この映画や他の映画を見ると分かる。ユダヤ人とネイティブ・アメリカンというどちらも当時のアメリカ社会では差別を受けていた人々。そんな2つの人種の間に繰り広げられる悲劇は、単純なメロドラマには終わらない重さを持つ。

 技術的には特筆すべきところはないが、内容的に注目すべき作品だ。


「A CALAMITOUS ELOPEMENT」(1908)

 製作国アメリカ アメリカン・ミュートスコープ・アンド・バイオグラフ製作・配給
 監督・脚本D・W・グリフィス 出演ハリー・ソルター、リンダ・アーヴィドソン

 駆け落ちをすることにした男女。それを見つけた警官に追われる泥棒は、女のトランクに入り込む。

 ベタな駆け落ち劇に、ちゃっかりとした泥棒を絡めたコメディ。2階のベランダの女と、地上の男が駆け落ちをするシーンは、「ロミオとジュリエット」のパロディのようだ。


「BETRAYED BY A HANDPRING」(1908)

 製作国アメリカ アメリカン・ミュートスコープ・アンド・バイオグラフ製作・配給
 監督・脚本D・W・グリフィス 出演フローレンス・ローレンス、ハリー・ソルター

 隣の部屋の女性が持つ宝石を盗んだ女性は、それを石鹸の中に隠すが・・・。

 この作品には、クロース・アップがある。宝石を石鹸の中に隠す様子がそれだ。明らかに、別撮りされている(背景が黒いことからも分かる)といった技術的な面や、ストーリーにそれほど大きな影響を与えていない面など、うまいというわけではないが、グリフィスが技術面に注意を払って監督していることが伝わってくる。


「THE SONG OF THE SHIRT」(1908)

 製作国アメリカ アメリカン・ミュートスコープ・アンド・バイオグラフ製作・配給
 監督・脚本D・W・グリフィス 原作トマス・フッド 脚本フランク・E・ウッズ 出演フローレンス・ローレンス

 病に伏せる娘を助けるために、シャツの直しの仕事を得ようと駆け回る母親。仕事は手に入れるが・・・。

 原作のトマス・フッドは貧しさを扱った作品を残した人物で、この作品も貧しさから来る悲劇を描いている。

 貧困に苦しむ人々に、金持ちたちが享楽に走る様子が描かれている。この手法は、エジソン社の作品にも見られるものだが、短編では強い効果を発揮する。ベタと言われようとも。