D・W・グリフィスの作品 1908年(1)

「THE ADVENTURES OF DOLLIE(ドリーの冒険)」

 アメリカン・ミュートスコープ・アンド・バイオグラフ社の作品。D・W・グリフィスの監督デビュー作として有名。

 「ドリーの冒険」は、D・W・グリフィスの監督デビュー作にして、後のグリフィス映画およびアメリカ映画の一系統を予見させる作品となっている。

 1人の少女がジプシーの男に誘拐され、樽に入れられる。馬車での移動中に樽は川に落ちてしまう。この単純なストーリーは、サスペンス的な側面を持っているものの、映画自体にはサスペンスはさほど感じられない。だが、サスペンスを起こそうという意思は感じられる。

 たとえば、姿を消した娘を探す父親は、ジプシーの馬車まで探しに来る。父親は馬車の中の荷物をひっくり返して娘を探すが、樽の中身までは確かめない。ここには、1つのショットの中でサスペンスを生み出そうという意思が感じられる。

 またたとえば、川に落ちた少女を入れた樽が川を下る様子がゆっくりと、しかし時間をかけて描かれる。小さな滝を落ちたりしながら進む樽の姿が直線的にショットを積み上げて描かれているため、そこにはさほどサスペンスは感じられない。だが、ここぞというシーンを、時間をかけてゆっくり描こうという姿勢に、映画にサスペンスを与えようという意思が感じられる。

 「ドリーの冒険」のショットは固定され、1つのシーンが終わるまで動くことはない。ワンシーン・ワンショットで撮影され、1つのシーンの中でカットが割られて、小道具が強調されたりといったこともない。また、ショットは直線的に積み上げられ、川を下る樽と娘を必死で探す両親のショットが組み合わさることもない。技術的には同時期の他の会社の他の監督の作品と比べて、優れているとは感じられなかった。

 グリフィスの後年の作品は、技術を革新してサスペンスを生み出そうとした作品が多くある。「ドリーの冒険」は、そんなグリフィスの監督デビュー作にふさわしい作品だ。グリフィスは「ドリーの冒険」を雛形に、改良に改良を重ねていくかのようだ。

 「ドリーの冒険」の単純なストーリーは、この後もグリフィス自身をはじめとして、多くの映画監督たちが取り組んでいく主題でもある。手を変え品を変え、この手のストーリーは私たちに提供され、時に私たちを魅了する。「愛する人物が危機に陥り、助ける」という単純でありながら、魅惑的なストーリーをグリフィスがデビュー作に選んでいるというだけで、グリフィスのこの後の成功は約束されているようにすら感じられる(グリフィスは、この手の作品のみを手がけていくわけではないが)。

 ちなみに、蓮見重彦氏は、川を下っていった樽が映画の前半に登場した川辺にたどり着く点に注目している。観客が見知った場所が再び映し出されることで、観客は映画の終わりを(約束されたハッピー・エンドを)予感する。この効果を蓮見氏は「ドリー効果」と呼び、これまでの映画にはなかったものとしている。確かに、朝に家を出た人物が、夜になって家に戻ってきたときのような安堵感が、「ドリーの冒険」の終わりにはある。グリフィスが計算の上にこういった展開にしたとしたら、グリフィスの物語を映像で語るという感覚の鋭さに恐れ入る。



(DVD紹介)

「Biograph Shorts 」

 バイオグラフ社監督時代のD・W・グリフィスの作品を集めた2枚組DVD。ほぼ15分程度の短編が、全23作品収められている。デビュー作「ドリーの冒険」も収録。

 アメリカのamazonから輸入して買うことができるが、もちろん英語。それでも買いたいと思う人は、下記サイトが参考になります。

http://dvd.or.tv/


注意!・・・amazonでは「リージョン1」となっていますが、私が持っている日本国内用の「リージョン2」のプレーヤーでも再生できました。リージョンは「オール」と思われますが、実際に購入して見られなくても責任は負いません。