フランス 社会を描いた映画

 昨年(1911年)、ゴーモン社のルイ・フイヤードは、<ありのままの人生シリーズ>で社会を描いた作品を製作したが、エクレール社に所属していたヴィクトラン・ジャッセも同じ試みを行っている。

 ジャッセは、実際の強盗団から着想を得て、「灰色の自動車」(1912)を製作しているが、強盗団寄りの内容だったため、各地で非難を呼んだ。

 さらに、<人生の戦い>と銘打ったシリーズで社会研究へと向かった。

 「闇の国にて」(1912)は、ゾラの「ジェルミナル」から着想を得ている。北フランスの炭鉱が舞台で、本物の石灰で坑道を再現。労働者の世界は、珍しい枠組みに過ぎず、恋の鞘当てが語られた。だが、工業地帯の憂鬱な雰囲気と風景の厳しさは描かれていた。また、「サボタージュする人々」(1912)は、ストライキが人々の利益を裏切るという内容だった。

 <人生の戦い>シリーズはあまり人気を呼ばなかったという。

 ゴーモン社では、ルイ・フイヤードが初めて探偵を主人公にした映画のシリーズも監督している。ルネ・ナヴァール扮するジャン・デルヴィウ探偵が主人公のシリーズで、4本が製作された。

 また、パテ社でも、「過酷な人生の諸景」シリーズと題して社会を描いた作品を製作している。「アヘン吸引パイプ」(1912)より始まったこのシリーズは、社交界ドラマ、不倫、恋の苦しみ、社交界の悲劇を描いたという。

 フランスの社会を描いた映画は、社会と言っても社交界を中心に描かれており、現実の戦争の脅威、労働運動の成長する力、ストライキ、物価高といったものを反映していなかったと言われている。



(映画本紹介)

無声映画芸術への道―フランス映画の行方〈2〉1909‐1914 (世界映画全史)

無声映画芸術への道―フランス映画の行方〈2〉1909‐1914 (世界映画全史)

映画誕生前から1929年前までを12巻にわたって著述された大著。濃密さは他の追随を許さない。